第5話 これは【再生】の、物語。

 「イケナイ、今日は1時間早出だったんだっけ!」

 「えっ?そうだったの?じゃあ、急がなくっちゃ!」

 「でも、ナオトの朝食はちゃんと食べていくよ」

 もったいないものと、マークは大慌てでコーヒーとパンとベーコンとを行き来する。

 「わっ!」

 慌てすぎたものだからつい、手元が狂ってマークのYシャツの胸元にコーヒーが見る見る染みを作っていった。

 「大変!染みになっちゃう!」

 「それより、早く着替えないと!絶対に遅刻しちゃうよ!」

 染みはボクが取っておくから、とナオトはマークを着替えさせようと、した。

 背中からスーツを脱がせ、両腕を前に回してYシャツのボタンを上から一つずつ外して、いく。

 ふと、ナオトがマークの広い背中を、抱きしめた。

 そのまま、ポプンと、顔を肩甲骨と肩甲骨の真ん中に埋める。

 「…淋しい想い、させたね」

 「うん…」

 「良く、耐えてくれたね…」

 「…マークが【居て】くれただけでボク、幸せ、だったんだよ?」

 マークはじんわりとYシャツの、ナオトの頬が当たる箇所に温かい物が染みてくるのを、感じた。

 ちょっと、マークは天井を見やる。

 そして徐に、傍らにあったスマートフォンを発信、した。

 「あ、社長、申し訳ありません」


 コイビトが離してくれないので1時間遅刻します、と。


*****


 目覚めるとソコにはうっとりする位ハンサムなジョーイが、安らかな寝息を立てていた。

 ジョシュアはそっと、その右手に自分の左手を、添える。

 すると、本当にゆっくりと、ジョーイの眼が、開いた。

 久しぶりに見る、深淵のようなエメラルドグリーン。

 すっと、ジョーイのキレイな長い指がジョシュアの頬を、拭った。

 ジョシュアは、知らずに瞳から擬似水分を流して、いた。

 「ボクが、先に寝ちゃったんだね」

 ごめんねと、懐かしいジョーイの声が、聞こえる。

 「うん、うん、」

 ジョシュアは、泣きやめられなかった。

 ソレを、困ったようにジョーイが見ている。

 「ほら、笑って?ボクに、久しぶりにキミの輝くアンバーの瞳を、見せて?」

 ジョシュアは、笑った。

 うまく笑えているかはわからなかったけど、ジョーイが望むならと、努力、した。

 「…散歩にでも、行くかい?」

 ジョーイが、ニッコリとしてジョシュアに、聞いた。

 「ソレもいいけど、」

 もう少し、このままで…。

 恥ずかしそうにそういったジョシュアを、ジョーイは愛おしそうに両腕で、抱きしめた。

 そうして、何故か直しては貰えなかった右手の甲の穴を、外の光に翳す。

 すると、ジョシュアも真似して、自分のやはり穴の開いた左手を上に、翳した。

 二人はクスクスと笑うととても、とても柔らかいキスを、交わした。


*****


 「じゃあ、行ってくるよ?誰か来てもドアを開けちゃ、イケないよ?」

 玄関先で革靴の紐を縛ると、見送りしに来たキリトの銀髪をその大きな手でオスカーはもじゃもじゃにした。

 ブンブンと首を横に振り、その手を両手で掴むと、そのまま、自分の頬に手繰り寄せ愛おしそうに頬擦りした。

 「ボク、コドモじゃないもん」

 ちょっと、頬を膨らませてるキリトがアメジストの瞳で大きなオスカーを上目遣いする。

 オスカーは参ったと、空いた方の手でコメカミを押さえてオーバーリアクションを、した。

 「…いつの間にそんなアップデートが施されたのかい?」

 こんな可愛い子を一人で留守番させる訳にはいかないな、と、困り果てていると、胸元のスマートフォンが、鳴った。

 「コイビトが?あ、ああ、そうかい、それは仕方のない事だね、わかったよ、ワタシも今日はリモートにするから」

 ダレから?と、いわなくてもアメジストの瞳が嫉妬を露わにして問うている。

 「部下からだよ、何でもコイビトが離してくれないから遅刻するらしい」

 ワタシのキリトみたいにね、と、また、くしゃくしゃとキリトの銀髪を弄った。

 こちらもまた頬を膨らませる、キリト。

 ちょっと、頬を赤らめてそっぽを向きながら、

 「オスカーがカッコよすぎるのが、悪いんだ」

 と、ボソッと呟いた。

 オスカーは今朝二度目の、コメカミ押さえを、した。

 いきなり、キリトを片手で抱き上げると、革靴を脱ぎ散らかしてスタスタとベッドルームまで、真っしぐらに向かっていく。

 そうして腕時計を操作すると、自分の秘書に、先程の部下と同じ理由を述べ、慌てる秘書の返答も聞かず、全ての通信機器をシャットダウン、した。

 ぽふんと、寝心地の良い二人のベッドに寝そべらされるキリト。

 ちょっと、いつもより乱雑な扱いにまた剝れながらも少しだけ、ドキッと、した。

 こんな感情、今まではソウイウ事をしている最中しか、湧かなかったのに。

 少しの混乱の中、逞しいオスカーの身体が重なって来て、キリトは完全に愛玩モードに突入、した。

 「か、可愛がって、ね?」

 しかし、何処かいつものモードとは違う【恥じらい】を感じて、ソレを察知したオスカーも、戸惑いながらもキリトの言葉に応えるように首筋に優しく優しく、キスを落とすのだった。


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【か弱きアンドロイドたちの鎮魂歌】 椿 蘭丸 @ran-maru-san

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