1.《Y》の守人
「とは言いつつな、非公式なルールもいくつかあるんだ。知ってるか?」
目の前にいる男性、ディーが話しかけてくる。わたしは首を振る。
「非公式なら知り得ないでしょう」
そりゃそうだ、とディー。
「でも知っとかなきゃならない。この任務を全うにするには重要なアドバンテージになる」
わたしは頷いた。でも彼の言ってることに同意する気持ちはない。今回の任務の重要度を理解はしているが、とはいえ、それはわたしにとって重要であるかどうかの尺度ではない。
わたしは連中を殺せたらそれでいい。
「いいか」とディーは言った。
「《M》と《Y》の誕生の順番には法則がある。《M》が先で、《Y》が後だ。法則とは言っても正確には傾向なんだが、でもこれまではそうだったし、これからもそうである根拠はないにせよ、俺たちはそれを疑ってるほど悠長にはしてらんない。
「それから俺たちにとって不利なことだが、《M》は《Y》の誕生を知ることができる。ヤツがそれを知るのが事前なのか、それとも誕生の瞬間なのか、後なのかはわからない。だがヤツは知ってる。何か知る術を持っている。実際、先々代の《Y》は朝に生まれて夜を拝む前に殺された。
「じゃあ俺たちはどうなのか? 《Y》が生まれたことを知る手立てはあるのか? 答えはノーだ。俺たちには全くわからない。生まれそうなのか、生まれたのか、今まさに──おい、嫌そうな顔すんな──生まれてる最中なのか、俺たちがそれを知るための手段はない。だから、どうしたって最初のターンはヤツらが取っちまう。
「おまけに、一人の《Y》の死から次の《Y》が生まれるまでの期間には法則がない。《M》がいる限りは必ず生まれるが、それが俺たち人間が絶滅する前にやってくるとは断言ができない。
「けどいいこともある。《M》が生きてる限り《Y》は何度でも生まれてくるが、《Y》が《M》の息の根を止めると、その《Y》が死なないうちは新しい《M》は出てこない。これは俺たちにとってデカいアドバンテージだ。《M》の方は
「歴史部の連中によれば、これまで《M》を殺せるくらいまで育つことができた《Y》は45パーセントだそうだ。6割は見つかって殺されてる。一人は相打ちになったから0.5パーだ。《M》の首元まで届いた《Y》は4割もいない。さっきも言ったように《Y》の誕生を察知できるのはヤツらの方だし、《Y》が右も左もわからんうちに殺そうと躍起になってる。だから──」
「わたしたちがいる」
いいかげん黙って聞いてるのが鬱陶しくなってきた。ディーの話には脈絡が感じられない。同じ単語を何度も出すところもうざったい。内容だって瑣末なことだ。要するに。
「──時間がないってことでしょ?」とわたしは言う。
「そうだ」とディーは頷く。
「じゃ、さっさと行きましょう」
《Y》を助けに、とは付け加えない。
守るために、とも。
わたしたちが生き残るために、とも。
だって、わたしは生き残りたくなんかないから。
わたしの名前は《エフ》。
わたしに与えられた名前が《エフ》。
わたしに業務上つけられた記号が《エフ》。
わたしの仕事はこれから《Y》を見つけ出し、首都まで彼/彼女を運搬すること。
この世界の救い主を守り抜くこと。
でも、それはどうでもいい。
わたしは《M》とそれに組みする連中を殺せればそれでいい。
満足の行くまで。
心行くまで。
気の済むまで。
結果としてわたしが生き残れるか、この世界が無事に存続するかどうかなんて、わたしにはどうだってかまわない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます