第8話 無謀な駆け出し冒険者08

自動調律(オルゴール)。

中級補助魔法であり、私が使える中で最も高レベル。

空中に魔法陣を展開し、別の魔法を一時的に格納して任意のタイミングで解放ができる。


便利そうに見えて使い勝手が限られて、あまり人気のない魔法。

魔術書を読んだとき覚えれそうだなと感じ、なんとなく覚えて以来使っていなかった。

今はこれが生命線。


「自動調律(オルゴール)」


二つ目の魔法陣が生まれた。

体内の魔力がごっそりと削られる。

さすが中級魔法。


「自動調律、自動調律、自動調律」


酷くなる頭痛。

魔力が尽きて目眩までしてくる。


「お願いエド、あと六十秒だけ」


私の言葉に剣を杖に立ち上がった。


「そんなに短くて良いのか?」


こんな時にまでこの人は。

私達は無言で拳をぶつけ合い、お互い生き残ることを誓った。


アンカーリザードの攻撃を躱し、バックラーで受け、ギリギリの戦闘をするエド。

その動きは最初にくらべてずっと遅い。

急ぐんだ。


私が発動した自動調律(オルゴール)は四つ。

まだだ、まだ足りない。

鞄からマナポーションを取り出し、一息に飲む。

外部からの急激な魔力供給に胃が痙攣した。

一回ひと口まで、購入時にそう聞いた気もする。

だからどうした。


「自動調律(オルゴール)!」


立て続けに発動する魔法。

再び空になる魔力。

全てを捧げて作った魔法陣が私を取り囲むように並ぶ。

数は十。

これだけあれば。


震える手でマナポーションをもう一本取り出した。

お願い、私の体、もう少しだけもって。


飲み切ると激痛と共に、何かが逆流してきた。

口内が鉄の味で染まる。

歯を食いしばり、一滴も漏らすことなく飲み下す。

今エドは命をかけて私を守っている。

私がたじろいでどうする。


足にぽたりと何かが落ちた。

血。

顔を触ると、目から、鼻から、耳から、血が滴っていた。

なんだ、そんなことか。


「光の矢(ルクス・テルム)!」


光は生まれると同時に自動調律へと吸い込まれた。


「光の矢、光の矢、光の矢、光の矢、光の矢……」


淡々と魔法をつめていく。

覚えたばかりなのに失敗をすることはなく、自分の集中力を褒めたくなった。

私の最大火力が準備できた。


「なあゾーヤ!もう九十秒ぐらい経ってないか?」


とうとう膝をついたエド

盾は歪に形を変え、剣は半ばで折れている。

次の攻撃はもう避けれない、防げない。


「まだ四十五秒くらいだよ」


私は杖の先端を敵へと向ける。


「でも――おまたせ」


エドの頭蓋を丸ごと砕こうと口を開けるアンカーリザード。

そんなこと、私が許さない。


「自動調律・全開放(オルゴール・オールリリース)」


一本で肌を砕くのなら、十本一点集中。

君に耐えられる?


あたりを照らす眩い光。

一点に集い、放たれた。

上級魔法に匹敵する一撃だ。

衝撃で私のアッシュブロンドが激しくたなびく。


「お願い!エドを守って!」


祈りに似た叫びが光に乗る。


魔法はアンカーリザードの皮膚を砕き、肉を裂き、貫通した。

喉に穴を開けた魔物は後方へ吹き飛び、木々をなぎ倒す。

全てを出し尽くした私は膝をつき、倒れ込む。


「ゾーヤ!今のどうやったんだ!?」


エドが私の肩を掴んで揺らす。

とたんに元気になっちゃって。

もうちょっと休ませてよ。


「ねえエド、アンカーリザードは?」


私を揺すっていた手がピタリと止まる。


「どうって、お前も見てただろ。森の奥に逃げて……」


これは代償。

分不相応な事をしたことへの。

でも、たったこれだけのことでエドを守れた。

安すぎて困っちゃうな。


「ゾーヤ……お前目が」

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