第5話 無謀な駆け出し冒険者05
どれだけ走ったのかもうわからない。
最初は私達のほうが速かった。
しかしどれだけ離そうとも、のそり、のそりと、気がつけば追ってきている。
鼻が良くて執念深い。
本で読んだ通りの厄介さ。
「……このままじゃ」
私の問いかけにエドが頷き止まる。
このままではいつか体力が尽き、抵抗さえできなくなってしまう。
なら今のうちになんとかするしか無い。
森の中の少しだけ開けた場所。
足を止め、息を整えて水を一口飲む。
髪をきつく結び直そうとしたが、指先が震えて出来ない。
今あるこの指が、命が、数分後には無くなっているかもしれないんだ。
冒険者になると決めたときに覚悟したはずが、怖くて仕方ない。
それでも弱音だけは言わない。
私の譲れない決意だ。
エドを見ると、不安な表情のまま胸を張って立っている。
『お前だけ逃げろ』
相棒はそんなこと言わない。
好きな人はいつも、
「ふたりで乗り切ろう」
私を対等に扱ってくれる。
だからこそ誓う。
何があろうともこの人を守る。
「エドお願いがあるの」
目の前の藪が大きく揺れ、アンカーリザードが姿を表す。
小さな熊ほどもある巨体。
全身を隙なく覆う岩肌。
これを砕く手段が一つだけある。
ただそれは、希望とはかけ離れたギャンブル。
それでも私はそれに”銀片”3つ、全てをベットする。
「少しだけ時間を稼いで」
「……任せろ」
何も聞かない、何も疑わない。
説明する時間さえもないという、ひどくお粗末な事態。
それでもこの人とならきっと。
私達の最初で最後の冒険が、クライマックスを迎える。
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