第4話 無謀な駆け出し冒険者04

硬い岩を砕くにはどうすれば良いのか。

そんなことを私は考えてしまう。


答えは簡単。

岩より硬い鋼で一点集中で叩く。

そして出来たくぼみに楔を打って亀裂を大きくする。

それだけ。


なら相手が鋼より硬い場合はどうすれば良いのか?

私はまだその答えを知らない。


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「なあゾーヤ」


手帳を片手に結界を点検していると、エドが後ろから話しかけてくる。

私と同じくらいの石塔の上、七色に輝くクリスタルが乗っている。

傷も何もなくて一安心。


「結界って結局なんなんだ?」


つんつんつっつく罰当たり者。

結界については冒険者の初心者講習で言ってたでしょ。


「エドはさ、でっかいムカデがいる宿屋の部屋で寝たい?」


パタンと手帳を閉じる。


「絶対ヤダな」


そういうことだよと私は言う。


「結界なんていってるけど、要はこの先は人間の領域だ。

 そうモンスターに明示してるだけ」

「俺達がムカデってことか」

「エドはムカデには勝てるよね」


何を言われているかイマイチピンときてないみたい。


「勝てはする。

 でもその毒虫は数千数万の仲間を呼んで自分が死ぬまで追いかけてくる。

 ムカデを殺す?」

「そこまでややこしいのには関わりたくないな」

「モンスターも同じなんだよ。

 だから人間には近づきたがらない」


整地のされてない森の中。

地図を頼りに先に進む。


「でもそれだと本当にまずいやつは防げないんじゃ?」

「こっちに危害を加えるつもりのモンスターには効果ないね」

「あー、そのための俺達か」


そういうこと。

ようやく理解してくれたみたい。


避けれる危険は避け、意思を持った危害は私達冒険者や軍隊が跳ね除ける。

いつの時代もどの世界も、結局最後は武力での殴り合いだ。


「なあゾーヤ」


呼ばれて振り返るとエドは足を止め、ショートソードを抜いていた。

その表情からは先程までのとぼけた感じは消えている。

私もダガーナイフを抜く。


「もし何も考えてないおマヌケなモンスターがいたらどうなる?」


彼は猟師の息子で、小さいときから森に慣れ親しんでいる。

だから私の気が付かない異変をいち早く察知した。


静かな森の中。

耳を澄ませても聞こえるのは遠くの鳥の声。

私達の前方の音がすっぽりと消えている。


「……何かいるな」


擬態を行い、餌が来るのを待つモンスターは多い。

迂闊にも私達はそのテリトリーに足を踏み入れたみたいだ。

エドが視線で前方の藪を指す。

私にはただの低木と岩にしか見えない。


「頼む!勘違いであれ!」


体重を乗せたエドの渾身の突き。

力任せだからこそ強い。

しかしそれはあっさりと、藪の中の岩に弾かれる。


「逃げるぞ!」


エドが私の手を掴み走り出す。

その時後ろで、のそりと岩が動いた。


「うそ、あれって」


錨蜥蜴(アンカーリザード)。


鋼よりも硬い、岩に似た鱗をもつモンスター。

性格は狡猾で、岩に擬態して近くを通る動物や人を片っ端から捕食する。


そして何よりも厄介なのが鼻が良く、どこまでも追跡する執念。

ベテラン冒険者なら余裕で対処できるはずだけど、私達では。

自分の存在に気づき、先手を取られたことが不満なのか大きく咆哮し、俊敏な足で追ってきた。


今の私達にあの皮膚を貫く手段があるだろうか。

否、考えるまでもなく無い。

では街まで逃げることができるか。

否、考えるまでもなく遠すぎる。


絶望の足音が近づいてくる。

私に残された切り札はふたつ。

効果があることを今から願う。

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