第3話 無謀な駆け出し冒険者03

私とエドの間で焚火が燃えている。

ちらちらと踊る灯りと彼。

ふたりっきりで人里離れた場所。

こんなところで一夜を共にするなんて初めてだ。


「なあゾーヤ、聞いてるか?」


はっと我に返った。


「うんごめん、聞いてるよ」


エドはクエストの話をしてくれてるんだから、真剣に聞かなきゃ。

勝手にドキドキしていたのが恥ずかしい。

今回受注したのは防御結界の確認作業。


ダンジョン都市アイギスの周りにはぐるっと囲むように、モンスター除けの結界石が置かれている。

この結界のおかげで街はモンスターから安全に保たれているんだ。

それを定期的に冒険者が見回りをして、正しく機能しているかチェックをする。


なにも問題なければお散歩で終わる仕事で、私たちみたいな低ランクの定番みたい。

エドがクエスト受注書を読みながら悩んでる。


「明日は早めに出発しようか」


街東部の確認が仕事なんだけど、予定の7割くらいしかできなかった。

慣れない森と緊張感が足を引っ張った。

なにより私の体力にエドがあわせてくれたのが大きい。

荒れ地を歩くことは田舎の山登りで慣れているつもりだった。


「そうだね明日はがんばろ」


ふたりで冒険者になるって夢がやっとかなったんだ。

こんなとこで足止めされるわけにはいかない。

私たちに残された時間はあと2日。

明日はたくさん歩いて仕事を終えて、明後日には町に帰らないと。


「俺が見張りしてるから先に寝ろ」


エドがぶっきらぼうにザックから毛布を投げてきた。

自分もくたくたのはずなのに、なんでもない風を装って。

不器用な彼の言葉に甘えて、私は毛布をかぶって横になる。


下は葉っぱを敷き詰めただけの地面。

硬くて痛いし、虫を駆除するために燻しているから煙っぽい。

それでも1日歩き続けた私の体は疲れ切っていて、すぐに瞼が落ちてくる。

眠りに落ちる瞬間に見た彼の顔は、困ったように笑っていた。


虫の声が占める森の中。

目の前で眠るゾーヤ。

今日は朝から一日動きっぱなしで、男の俺に必死についてきていた。

泣き言一つ言わずに。


きっと疲れたのだろう。

眠りはかなり深そうだ。


「それにしても無防備だろ」


幼馴染の目からしてもゾーヤの顔はとても整ってる。

村にいた頃も寄り付くやつをはらうのに苦労をした。

それだけに男で嫌な気分になったことも多いだろう。


「それだけ俺を信頼しているってことか」


寝顔を見せてもらえる。

その特権を今は楽しもう。


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それが好きな人を見た、最後の夜であった。

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