幕間 テティア
テティアは、エリスを眺めながら、祖父との会話を思い出した。
──「テティア、またそんなところにいたのかい」
穏やかな、けれど少しだけ呆れたような声が降ってきた。
七歳のテティアは、屋根裏部屋の円窓から差し込む光の柱の中にいた。
埃が金色のダンスを踊るその場所で、彼女は一冊の分厚い図鑑を広げていた。
「おじいさま、見て。この石、星のかけらみたい」
彼女が指差したのは、図鑑に載っている美しい鉱石ではない。窓枠の隅に置いた、庭で拾ったなんてことのない灰色の小石だ。
けれど、テティアが指でなぞると、その石の表面にある微かな結晶が光を反射し、まるで銀河のようにきらめいた。
祖父は眼鏡の奥の目を細め、彼女の隣に腰を下ろした。
「そうだね。テティアが見つけるものは、いつも特別だ。他の人が『ただの石』だと思って通り過ぎるものの中に、君は物語を見つけるんだね」
祖父は彼女の小さな掌を包み込むようにして、こう続けた。
「いいかい、テティア。世界は言葉でできている。けれど、一番大切な言葉は、声にはならないんだ。それは光の揺れや、風の冷たさ、石の静けさの中に隠れている。それを見つけ続ける限り、君は一生、退屈することはないよ」
その言葉は、小さなテティアの心に深く根を張った。
時計の針が刻む音が、テティアを現在へと引き戻す。
今の彼女は、かつての祖父と同じように、愛する我が子と向きあっている。
窓の外は、雨上がりの午後の匂いが漂っていた。
テティアはふと思い立ち、引き出しの奥から小さな木箱を取り出した。中には、あの日の「星のかけら」が今も大切に収められている。
大人になった彼女の目から見れば、それはやはり、どこにでもあるただの石ころだ。
けれど、彼女がそれを窓辺の光にかざすと、かつての屋根裏部屋の匂い、埃のダンス、そして祖父の温かな手のひらの感覚が、鮮やかに蘇る。
「……本当ね、おじいさま」
テティアは独り言をつぶやき、ペンを走らせる。
「私たちは、見たいものを見るのではなく、愛しているものを見つけるのだ。」
日記にそう書き記すと、彼女は窓を開けた。
湿った風が彼女の頬を撫で、街の喧騒を運んでくる。急ぎ足で水たまりを避けていく人々。その中で、一人の少女が立ち止まり、水面に映る雲を指差して笑っていた。
テティアはそれを見て、柔らかく微笑む。
彼女の日常は、こうして「かつての自分」と「今の世界」が交差する、静かな対話の連続でできている。
彼女はコートを羽織り、エリスを抱え、テラスに出ると、木々の煌きを感じ、流れる雲が自然と目に入る。
今日はどんな「声にならない言葉」がこの世界に溢れているだろう。彼女の歩幅は、今日もどこまでも穏やかで、自由だった。
──いつも特別な愛する我が子と共に
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転生女神と聖母テティアの創世譚 〜追放された母娘が世界の闇を浄化するまで〜 とまと🍅 @tomato-1043
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