第3話 公園
――ほら、まもなく公園に着くわ。辛気臭い事は考えないようにしないとね――
一丁目公園と文字の書かれた、古びた看板が見えた。
公園から、幼い子の笑い声が聴こえてきた。
千絵は、その声の方へと歩いて行った。
一丁目公園には、少しばかりの遊具があった。
そのどれもが古びたものであった。
きっと昭和の時代に備え付けられた遊具であろう。
ペンキもあちこち剥げていいる。
この住宅街は、もう古い団地だから、この公園を使う子供も少ないのだろう。
今も、見渡しても一組の親子しかいないのだった。
「ママ―。みてみてぇ」
声の主は、二歳児だろうか。滑り台の上にいて、母親を呼ぶ。
ベンチに座り、携帯電話を忙しく触っていた母親も、その声に気付いたようだ。
バッグの中に携帯電話をいれて、滑り台の下に来た。
子供は嬉しそうにして、勢いよく滑りおりると、母親の腰の辺りにしがみつく。
「ママも一緒に滑ろうよ。一緒がいい」
「あら、ケンちゃん。ママはね、スカートだからダメなのよ。また今度ね」
「ケチ―!いっつもママはお約束守らないもん!」
ケンちゃんは、プーっと不貞腐れてしまった。その仕草も可愛らしい。
その様子を眺めていると、ふと、その母親と目が合った。
線の細いガラス細工のようなその女性は、母親と呼ぶのは似合わない空気を纏っている。長い髪の毛が、公園に舞う春の風に揺られた。
「こんにちは」
「こんにちは」
互いに、なんとなく挨拶を交わした。春の風がそうさせたのか。
「近くにお住まいなんですか」
「ええ、この近くに長く住んでいるのだけれど、この公園に来たのは初めてなのよ」
「私たち、越してきて間もないんです。だから友達もいなくて」
いつの間にか、千絵とその女性は互いの身の内をはなしはじめた。
千絵は滅多に自分の話などしないのだが、今日は違った。
亡くなった夫の事、自分の体調の事、辞めた仕事の話もした。
その千絵の話に呼応するように、その女性も自らの事を話し始めた。
ケンちゃんの母親は、石越美津紀という名前で、最近この辺りに越してきたそうだ。
哀しいかな、離婚した元夫はDVが激しく、この引っ越した所も元夫にばれないよう、知り合いのいないこの場所を選んだのだ。
遠方に暮らす母親にすら、今の住所を明かしていないそうだ。
せめて健には友達を作ってあげたくてこの公園に来たけれど、誰も遊んでいる子供がいなくて困っていたところに、千絵がやってきたのだった。
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