第4話 不思議な関係

「そうなの。大変だったのね……」

「でも私には健がいますから。あの人は、なんとしても健を取り返そうと躍起になって探し回っていると思います。絶対にあの人に健は渡しません。絶対に」

「知らない土地に小さな子供を抱えてだと、不安な事もあるでしょう。せめて実のお母さんには、今の住所を教えた方がよい気がするのだけれど」

「母の住まいは、あの人も知っています。母は頼れないんです…」

何を思い出したのか、美津紀の目から涙が零れた。

遠くにいて心配している母の事か、先行きの見えない自分の未来の事なのか。

 

千絵は、正直言って、他人とあまり関わらない性分である。

面倒見の良いタイプでは決してない。

今日、初めて出会う人とこうして話し込むのも初めてだった。

だが、千絵の心の中に、理由のつけられない感情が芽生えた。

 

「私の家はね、すぐ近くなのよ。そこの通りを過ぎて少しいった所にあるの。

何か困ったことがあったら、連絡してちょうだいね。お役に立てるかは分からないけれど、いないよりいいでしょ?」

思いがけない台詞に、言った本人が一番驚いた。

美津紀は、千絵のその言葉を聞いて、とても嬉しそうにした。

「改めて自己紹介するわね。私は、笹井千絵。よろしくね。きっと歳は美津紀さんのお母さんくらいかな」

「千絵さん、本当にありがとうございます。私の名前は、石越美津紀です。この子はケン、石越健です。よろしくお願いします」

二人はLINEを交換した。よし、これでとりあえずは安心だ。

もし、美津紀が病気になっても、私がいる。ケンちゃんが悲しむようなことがあってはならないわ。

こうして、千絵と美津紀の不思議な関係が始まった。

 

ふと、千絵は先ほど立ち寄った『金の鈴』を思い出した。

「ねえ、美津紀さん。もしよかったらすぐ近くにある喫茶店に行きませんか?

そこのチーズケーキがとても美味しいの。そして、そこに貴女と同じくらいの年齢のウェイトレスがいてね。もしかしたら、この近所にすんでいる子供達の情報を教えてくれるかもしれないわよ」

 

千絵は来た道を、今度は三人で引き返した。

『金の鈴』に行くために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

智慧の輪 @Sumiyoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る