第2話 金の鈴

カラン。カラン。ドアを開けると、低い音の鈴の音が店内に響いた。

「いらっしゃいませ!おひとり様ですか?」

「はい」

「どうぞ、空いてあるお好きな席にお座りください」

はつらつと出迎えてくれた女性店員は、忙しそうにあちこち小走りしている。

まるで、バンビのようね。ウェイトレスは彼女だけのようだった。

 

店内には、芳しい珈琲の香りが満ちていた。なかなか良い店だ。

こんな住宅街にあるのに、店内には数人客が既にいた。

そのうちの一人の男は、カウンターでマスターらしき人と談笑している。

 

――さて、と…どこに座ろうか

いきなりカウンターに座る気にもなれなかったので、窓際の席に座ることにした。

窓の外を眺めてみれば、可愛らしいチューリップが咲いていた。

――良かった。特等席じゃない。ついてるわ

座ると、ほどなくして先ほどのバンビがピョンピョンやってきた。

「こちら、メニューとなっております。あ!まだモーニングも大丈夫ですよ」

「お勧めは、こちらのケーキセットです。当店自家製のチーズケーキは特に美味しくってお勧めなんですよ」 

一気に喋り、ニコッと微笑んだ。

人懐こいというか、おしゃべりさんなバンビのお勧めのチーズケーキにすることにした。

――なんとなく憎めない子だな

バンビのネームプレートをみたら、彼女はどうやら和田さんというらしい。

歳の頃は、二十歳半ばであろうか。

――私に、もし子供がいたなら、ちょうど和田さんくらいね

注文していたチーズケーキと珈琲を持ってきた時も、彼女の口はとまらない。

「このチーズケーキは国産のレモンと濃厚なクリームチーズをふんだんに使用しています。リピーターがおおいんですよ」 

ニコニコしながら話してくる。

初めてきた気がしなくなる不思議な喫茶店だった。

 

喫茶『金の鈴』を出た後、予定していた公園へと向かった。

――私が若かったなら、喫茶店で働くのも悪くなかったかもしれない

先ずは無理をしないで、体調を整えないとね。

眩暈の原因は結局はっきりとは分からなかった。

おそらく、ストレスだろう……と言われた。

ストレスのかからない仕事なんて、あるわけない。

体調がよくなって、自分に折り合いをつけてボチボチと働こう。

もう親は他界し、兄弟も親戚縁者もいない。天涯孤独の身の上だ。

誰に頼る事もできないのだから。

 

胸の中に冷たい風が吹いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る