第5話 後日談

「今日からここでバイトすることになりました。師走颯しわすはやてです。皆さんよろしくお願いいたします」

 あの勝負から二か月後。大学受験に専念するためシフトを減らしてほしいと相談をしたところ、師走颯しわすはやてがスタッフとして食い逃げカフェの仲間になった。実力は折り紙つきで即採用された。どうやらミカさんの伝手つてだったらしい。いつの間に連絡先を交換していたのか。

「お前、よくここ選んだな。ウチの店長、あん時『首吊る!』って騒いで大変だったんだぞ」

「え?どうして?」

「なんでってそりゃお前・・・」

 あの時店長から言われたことをまんま伝える。飲食店の生存率やら食い逃げの再現性やら。

「あれ?でも僕、最初に来た時に、もう来ないですって言ったら、ミカさんにタダで良いから1回だけ真剣勝負しに来てほしいって頼まれたんだけど...」

「えっ」

 ミカさんを見る。ミカさんは不思議そうな顔をしている。

「もしかして言った方がよかった~?」

 俺、危うく前科がつくところだったんですけど!?


「それで?ハードルは跳べるようになりそう?」

「ああ。まだスムーズじゃねぇけど跳べるようになった。大学に入れたら陸上部でハードルやるつもり」

「そっか。じゃあ大会で勝負するのを楽しみにしてるよ」

 師走しわすにホールの仕事を教えながらそんな会話をする。ここでアルバイトを始めて良かった。師走しわすと勝負出来ただけじゃなく、諦めていたハードルをまた跳べるようになった。何がきっかけで人生が好転するかわからないもんだ。

「説明は一通り終わったからロールプレイングをしよう。俺がお客様をやるから師走しわすは店員やって」

 仕事を教え終わるとロールプレイングに入る。ロールプレイングとはいえ、実戦で得られる経験値は大きい。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか」

 俺はあらかじめ用意していたセリフを言う。

をひとつ」

 右の口角が上がる。師走しわすも口角が上がっていた。ロールプレイングが終わって覚えていたら指摘をしよう。

「ずっとリベンジしたいと思ってたんだよね。ルール説明は別にいいよね。すぐリストバンドを持ってくるから待っててよ」

 師走しわすはロールプレイングのことを完全に忘れていた。今回は見逃してやるか。渡されたリストバンドを腕に着けサンドイッチを食べる振りをする。店舗掃除をする師走しわすの隙をついてエレベーターに向かって走り出した。

「食い逃げよ~」ミカさんの声と師走しわすが追いかけてくる足音が聞こえた。


食い逃げカフェにようこそ。今日もお客様のご来店を心よりお待ちしております。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

食い逃げカフェにようこそ! 31to73 @31to73

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画