第22話 この世界に無い筈の物

「今日はマエルに頼みがあって来たんだ。本当は昨日話す予定だったけど、それどころじゃなかったからね」

「僕にできることなら、何でもしますよ」


 居間でプリュネが淹れたお茶を飲みながら、クルスが言う。

 クルスに恩返しをと思っていたマエルは即答した。


「実はね、マエルに新たな作物の研究を依頼しに来たんだ」

「新たな作物?!」


 途端に、マエルの目が輝く。

 農業や土地や植物の研究は、マエルの得意分野だ。


「これだよ」

「……! こ、これは……」


 クルスが差し出した物は、マエルの心を大きく揺さぶった。

 未知の植物に出会った感動……ではない。

 それは、マエルがよく知っている物。

 しかし、この世界には無い筈の物。


「……これは種籾……【稲】そして【米】になるものですよね?」


 それは、前世トラが生涯をかけて守り続けた作物だった。


「まさか、これが何か分かる人がこの世界にいるとは思わなかったよ」


 クルスはそう言うと、変身を解いた。

 黒猫獣人は、魔法で変えた仮の姿。

 彼の本当の姿は、黒髪に黒い瞳の日本人だった。

 その姿を見たマエルは、嬉しさと切なさが入り混じった笑みを浮かべる。


「マエルは転生者かな? 前世は日本人?」

「僕の前世は猫です。畑や納屋の作物を荒らすネズミを狩るお仕事をしていました」


 昔を懐かしむような遠い目をして、マエルは自らの過去をクルスに告げた。

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