第14話 隣のタゴサク

「オラ、タゴサクと申しやす。領主様に御挨拶に伺いやした。これよろしかったら召し上がって下せぇ」


 マエルが出向く前に、隣家の住人が差し入れを手に屋敷へ来てくれた。

 王都とは違い、この地域では貴族と平民の垣根は低いらしい。


「……タゴサク……さん? どこかで会ったような……」


 タゴサクの姿を見た瞬間、マエルの脳内に記憶が蘇った。


 金色の稲穂。

 優しい老人の姿。


「トラは偉いなぁ」


 いつも褒めてくれた、穏やかな声も。

 ずっと会いたかった筈なのに、転生してから思い出せずにいたのだ。


「あなたの前世の記憶は、吾作の転生者に会ったときまで封じておきましょう」


 虹の橋の番人が、そう言っていたことも。

 タゴサクこそが吾作の転生者であると、マエルは確信した。

 その両目から、涙が幾筋も流れ落ちる。


「りょ、領主様? どうなすったんで?」


 状況が分からないタゴサクが困惑している。

 彼は、トラの転生者に会っても前世の記憶は戻っていない。

 そのことも、マエルはすぐに理解した。


「いえ、ちょっと懐かしい人を思い出しちゃって……」


 マエルは泣き笑いを浮かべて、そう言うしかなかった。


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