第3話 吾作という名の老人

 それからというもの、その農家の納屋には必ずカリカリと水が置かれるようになった。

 トラはそこのネズミを捕らえると、カリカリを平らげた代わりに置いて帰る。

 そんな日々がしばらく続いたある日、トラは農家の主と出くわした。


「シャーッ」

「逃げんでもええよ、これを置くだけじゃからの」


 背を丸めて威嚇するトラに、農家の老人は穏やかな声で話しかける。

 老人は手に持っていたキャットフードの小袋を開けて、中身をお茶碗に注ぐと、お椀を持って行って納屋の外の水道で新しい水に入れ替えて置いた。


「では、ワシは退散するから、ゆっくりお食べ」


 老人はそう言うと、納屋の外へ出ていく。

 トラは、いつも置かれていた食べ物と水が、自分のためのものだと知った。

 これが、トラと吾作という老人との出会いであった。

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