第11話 因果の名探偵 謎解きが始まる――欠けた論理の中で(0)
裏の活動拠点で、俺の未来は、お姉ちゃんの呪いに染まったわけだが、いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。
「ごめんね。仕事、全部押し付けちゃって」
呪いの影響でぐっすり寝込んでしまった。それはつまり、アメリアに膨大な資料整理を丸投げしたということだ。
中身が年上の人間として、本当に申し訳ない気持ちになる。
「いえ、お気になさらないでください。あの位の量は、父の仕事を手伝っている時はよくあることなので」
「……そうなんだ」
アメリアの家はどれだけブラックなんだ?
賢者時代の俺が最も忙しい時期に、一週間ほど屋敷を空けた時並みの量だったぞ。
弟子達はそれ以上の仕事を、一見すると涼しい顔でこなしているように見えた。だが、話しかけたときに見た、彼らの瞳の奥に広がる虚無には寒気を覚えたものだ。
やはり、働き過ぎは人間をダメにするな。
ここは年上の人間としては、配慮した方がいいだろう。
「調査は丁寧に行おうよ。時間をかけて村まで行って、見落としがあったらいけないから」
何より、彼女の休暇になるようにしなければ。もちろん、被害者のためにも、行方を示すヒントを見落とさないように、腰を据えて調査をしないといけないというのもある。
「ええ、そうですね。せっかくの謎を、すぐ解いてしまうのはもったいないですから」
(……ん? 今、ヤバイ何かを聞いた気がするぞ)
いや、アメリアは体育で倒れた俺を心配してくれた優しい子だ。今の発言は、単なる好奇心旺盛な優等生の戯言だとするのが、大人の優しさだよな? 被害者の安全が懸っている状態で、自分の趣味を優先するとなると、な?
などと話す俺達は今、マキナをエンジンとして使うバスに揺られている。
バスの窓から見える風景は、数分前とは全く別の街を走っていると錯覚するほどに、目まぐるしく変わっていく。
叡明学園周辺の歴史ある石造りを中心にした建物から始まり、無機質なコンクリート製のビルが立ち並ぶエリアがしばらく続き、やがて街壁へと辿り着いた。
たった数年前まで、石造りの街並みだったのに、これだ。
さらに一部の建物には、マキナを使った給湯設備が配管剥き出しで外付けされており、本来であれば数世代の違いがありそうな技術が、仲良く同居している。
本当、歪な発展をしたものだと、感心を通り越して呆れるしかない。
それはともかく、外界と市街地を区切る巨大な街壁近くで、快適なバスの旅は終わりだ。
街の外には、舗装すらされていない荒れた道しかなく、バスのタイヤが悲鳴を上げるせいだ。それに、街の外で故障しても、バスの修理ができる人間など皆無という事情もあるし、交換用部品も存在しない。
だから街の外にまでバスが走れるようになるのは、こういった走らせる土台を完成させなければならないわけだな。
「ここからは乗合馬車だね。……アメリア、お尻用のクッション持ってきた?」
「はい、クラリスさんからクッションを頂きました」
などと話しながら待ち続けること数分。埃っぽい道に、音を立てて古めかしい乗合馬車が到着した。待っていた全員が乗り込むと、御者のやる気のない掛け声と共に出発する。
乗合馬車から外は見えない。幌によって囲まれているから当然だが。しかし周囲の様子は、大体予想がつく。
「では、お気をつけて」
馬車が止まって聞こえたのは、やけに気の抜けたおっさんの声だった。
今の言葉から察するに、街の外周壁の門を出た辺りか。
なら、今の段階で走っている周辺は、背後にアンティナの街が少し小さく見える頃か。ただし街壁しか見えないと思う。そして、空は快晴で――違ったか。幌が雨を
(だが、旅に慣れているかどうかがハッキリとわかるな)
馬車の中には、色々な人間がいる。
最近はサスペンションという、衝撃を吸収する構造を取り入れた馬車が存在する。旅をすることが多い者の間では、サスペンションを組み込んだ馬車を当たりと呼び、そうでない物を外れと呼ぶと聞いたことがある。
どうやら、俺らの乗っている馬車は大外れだったらしい。 地面の凹凸を一切吸収することなく、ダイレクトに搭乗者の臀部へと伝えてくる。
「……うぐっ」
俺やアメリアを含め、数名は平然としている。しかし何人かは、馬車が揺れるたびに小さく跳ねている。旅慣れていないと、そうなるよな。彼らの尻のことを考えると、昔の俺と重なって同情せざるを得なかった。
「お嬢ちゃんたちは、どこに行くんだい?」
暇になってきたのか、隣に座っていたお姉さま――年上という意味だ――が話しかけてきた。
「私たちは、アビト村に学園の課題で行くところなんです」
「へぇ、そうかい。あそこはのどかだからねぇ。雨も降っていることだし、ゆっくりするといいよ」
それを皮切りに、アメリアは驚くほど自然に、他の同乗者たちとも交流を始めた。
向かいに座る商人風の男には特産物の話を振り、隅で黙り込む老人には体調を気遣う言葉をかける。さすが評議会議員の娘といったところか、育ちの良さを感じさせる振る舞いには一切の嫌味がない。
……まあ、単に好奇心で首を突っ込んでいるだけのようにも見えるが。
雨が降る中、馬車が停止する。そして御者の声が響く。残念ながら、雨が止む前に村に到着してしまったようだ。
「宿屋は、停留所から近いんだったよね」
「停留所のすぐ目の前にあるのが、この村で唯一の宿屋らしいですよ」
「じゃあ、これ。クラリス……さんに渡された」
「私を気にせず、お姉ちゃんって呼んでもいいですよ?」
くっ、お姉ちゃんの呪いが、アメリアを通して俺を蝕んでくる。
にこやかに笑っているが、瞳の奥に広がる「逃さない」という意思が透けて見えるのは、俺の被害妄想だろうか。
「さすがに外じゃ、恥ずかしいよ」
本当に恥ずかしいからな。俺の大人としての尊厳が断末魔の叫びをあげかねない。見た目は変われど、死守しなければならない一線があるのだ。
「ふふ、そうですか」
生温かい視線で、俺を見ないでくれ。けっこう、精神的なダメージが大きいから。
とりあえず、クラリスから渡された、ポンチョというタイプの雨具をアメリアに渡した。
そして、馬車を降りる際に代金を支払うと、すぐさま宿屋に駆け込む。
その最中に見た村は、のどかという表現がピッタリの場所だった。しかし実際はギフテッドの生徒の誘拐現場となった村。警戒をしなければならない。だが、その警戒を周囲に悟らせれば、誘拐犯や関係者がどう動くか分からない。
よって、まだ見ぬ犯人を油断させるため芝居が必要だ。
それは、俺たちは観光気分で浮かれた女子高生として、村を歩くこと――。
さて、
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