後編 ヒューマノイド


男は、なかなか来ないエレベーターを待つ。




けどよ、ヒューマノイドキャバクラ嬢は違う。最高性能のヒューマノイドはとんでもなく高いが、そんだけ稼げるってことなんだろーな。


もちろん、最高性能といってもスタンドアローンじゃあ対処でるわけがない。沢山の客ごとの、事細かなきめ細やかなパーソナライズが必要だからな。


その接客には、話す言葉には、とんでもない量の情報が常に参照されている。


初めてその、まぁ当時だがよ、最高性能のヒューマノイド嬢を見た時は…


鳥肌が立ったんだ。


その顔は白い肌、作り物だから当然なんだけどな、微かな緑に発光する瞳、それが感光センサーの励起の漏れだと分かってても、心臓が跳ね上がった。


細い首は肌色の皮膚外装が無い。ドレスから覗く細い肩も皮膚外装は無し、それは精密な金属の…剥き出しの、肌。


白い肌の顔、緑の瞳、薄ピンクの唇、それらと機械の体の銀ピカのコントラスト、


俺は、見惚れた。


ヒューマノイドの仕事をしていた俺も、フェラーリの倍は高い、超精密ヒューマノイドなんか弄ったことは無かったからな。そんなもん、俺の腕じゃバラしたらが最後、戻せない。




エレベーター(ピンポーン 扉が開く



7F [テナント募集]

6F ニコニコ ファイナンス

5F キャバクラ シンギュラリティ2号店

4F メンズ *アスタリスク*

3F みみかき足マッサージ

2F 貸事務所[空き]

1F ロビー階 ラーメン◯屋



目指すは5階


壁中に広告だらけ、やたら情報量多いエレベーターだった。



[シンギュラリティ 2号店]

最新鋭のヒューマノイドが誠心誠意お客様を癒します。



エレベーターを降りた男の前には、ビルの外観とは不釣り合いな、立派な扉。ここだけ洋館みたいなのも、あの頃のままのだな。




男は店のドアを開ける。


ドアの鈴が鳴る。 チリリン



美女「いらっしゃいませ。」


人間?男は、目の前に立つ女を見る。瞳、顔、髪の質感、首を動かした時の皮膚の動き、肩…歩いた時の身体のブレ…  人間?


美女「あたしはリン、そっちの子はアイよ。」(ニコッ


元気な声、リンと名乗るソレは、夏のひまわりみたいな笑顔。



違う。ヒューマノイドだ。均整が取れすぎている。



凄いな。



皮膚外装の上から付けまつ毛にメイク?ここまでするか普通?もう、見分けが付かないぞ。


10年でここまで変わるのかよ。


鼻(スンスン しかも溶剤臭くない、シャンプーしてるのか、匂いまで…こりゃ犬じゃなきゃ嗅ぎ分けられないな。


店は賑わっていた。テーブル席には機嫌良く酒を飲む男と、よりそうヒューマノイドたち。


もちろん、ヒューマノイドは飲み食いしない。その分、客が飲む酒の値段が割高なんだよな。倍くらい。


俺も、昔はあんなだったのかな。



ボーイが近付いてくる。



ボーイ「カズヒサ様、お席までご案内します。」



俺の名だ。



今じゃ、匿名の客を入れる店なんか無い。自動的に俺が誰だかわかるし、特に無人店舗は人を見て客かどうかを自動的に判断すんだよ。いや、人は見て無ぇ。購買力と信用を見てる。



ボーイ「ご指名はございますか?」



俺は辺りを見回した。


この店のヒューマノイド、どれも完璧に美しい。ケーブル付きはいない。電源内蔵、電池は何使ってるんだろ?歩行時のシナ、人間の視線の感知、  ニコッ 微笑み、パーフェクトだな。一番安そうな機種どれだ?


おい、何で一番安そうな機種を指名しようとしてるんだ?俺はもうヒューマノイド屋じゃないだろ。


店の料金は同じなんだから、どーせなら最新で新しい機種だろ。ここ10年の進歩、見せてくれよ。



ぉ、入り口のとこにいた、アイとリンだ。一発で憶えちまった。指名が無いのか?俺の方を見てアピールしてんな。


元気なリンは、チョイチョイって自分の顔を指差ししてアピール。少しおとなしいアイは、そんなリンの隣でもじもじ。ぉ、アイ腹黒いな。リンの足をわざと踏みに行きやがった。


リン「痛った、アイー!」



おい、どーなってんだ?ヒューマノイドは痛く無ぇだろ。店中のヒューマノイドを集中管理してロールを演じさせてんのか?それとも個別の挙動て?どーやって?



まあいいか、俺はもうエンジニアじゃあ無ぇ。



はは、人間の嬢のキャバクラなら「一番若い子をたのむ。」なんていう野暮なセリフになるだろーな。ヒューマノイドの店でもよ「最新の子をたのむ。」なんて言うのは野暮だ。せめて、「直近でソフトウェアがアップデートされた娘を頼む。」程度がせいぜいか。





男は店の隅を見る。


男の目が見開かれる。



 

カズヒサ「あれは?」


ボーイ「お客様、メタリーをご指名ですか?」


そうだ、メタリーだ、俺があの頃の夢中になっていたヒューマノイドのキャバクラ嬢、メタリー!


 ヒューマノイドが近付いてくる。


 コツン キュイン コツン キュイン コツン キュイン


足音に混ざる、ヒューマノイドの動作音、そうだ、音がしたんだ。


メタリーは ペコリ 会釈をする。


男は言葉が出ない。あの頃の、ままだ。10年前が、立っていた。



メタリーの存在感、この部屋で稼働している人の皮を被った美女みたいな機械とは違う、流行りの皮膚外装の無い、鉄の体、しなやかに動く鉄の指、俺は導かれるままに席に向かった。


「とりあえず、ハイボール」


ボーイ「かしこまりました。」



 酒も入った。そこから先は、竜宮城さ。俺はメタリーに何もかも吐き出した。ボーイは俺の顔を見て、気を使って、店の隅のブースに案内してくれたのかもな。


あの頃、これからの花形になるはずだったヒューマノイド整備の学校を出て整備士になったのに、失業したこと。それからは自立も会話もしないタイプの安価なヒューマノイドもどきの整備で食いつないでいたこと、俺は何もかも打ち明けた。


メタリー「そう、失業してしまったのね。」


酒に溺れてしまったこと。


メタリー「そう、お酒に溺れてしまったのね。」


ただ、静かに俺の話を聞いてくれるメタリー、あの頃のままのメタリー、変わってしまった俺。メタリー、俺はこの10年、失っただけなのか、それとも、何かを 目に見えない何かを得ていたのか?


なあ、メタリー、俺は変わっちまったのか?美しいままの、俺の心の メタリー





カズヒサ「この店、また来るぜ。」


メタリー「このお店、また来るのね。」



あれ、何かがおかしい。なんだ?


俺を見つめて小首を傾げるメタリー、その顔もセンサーの光が漏れる瞳も、銀色の光沢を放つ細い首も、何もかも変わらないのに、何かがおかしい。


まさか?


カズヒサの目に涙が滲む。










カズヒサは、帰り際のボーイの言葉を思い出す。


「メタリーですか。彼女はもう、ネットワークを利用できません。古い、ですから。当時のヒューマノイドのローカルでの処理能力では…しかしながら、それでも彼女を懐かしむお客様は多いので…」


薄暗い店内、気付かなかったがボーイの目尻には深い皺が刻まれていた。






おわり


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ロボットキャバ嬢 床の間ん @tokonoman

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