欺瞞

哺乳瓶さん

 荒木 涼


 今日も一人、部屋でギターを弾き続ける。

 ずっと、ずっと、永遠に。

 それだけが希望だから。

 高校時代から夢見てきたギターリスト。

 そのために、全てを捨てて走ってきた。

 あれから十年、今の俺にはこれしか無い。

 だから、今日も弾く。

 今から抜け出すために。


 カーテンを開け、雪が降っていることに気がついた。

 もう、大晦日か。

 来年こそは、夢を叶えてみせる。



 ◆◆◆◆◆◆



 新島 慶一


 私に未来は無い。

 それを見る余裕も無ければ、そこに希望も無い。

 バイトを掛け持ちし、生計を立てる。

 いずれ、体にガタが来るのは明らかだ。

 だが、それでしか生きる道を知らないから。


 死なないために生きる。

 生きたところでどうなる。

 俺には、何も無い。

 誤魔化すように、働く。


 深夜バイトを終え、外に出る。

 雪が降っていた。

 もう、そんな季節か。

 年末年始、俺には関係無い。

 どんな日でも、どんな時でも、私のやることは変わらないのだから。



 ◆◆◆◆◆◆



 牧之原 五郎


「本なんか読んどらんで、外に出んかい!」

 孫、宗悟を殴る。

 本が床に落ち、宗悟は頬を押さえ唖然としている。

「お父さん、いい加減にして!」

 恵子の奴が何か叫んでいる。

「うるさい! 女は黙っとれ!」

 恵子が宗悟の下へ駆け寄り、何かを訴えかけるように俺を睨む。

「チィ!」


 最近の若いもんは成っとらん。

 外にも出ず、毎日本なんか読んで。

 それでも男か。

 何が多様性じゃ。

 くだらん。

 殴られもせずに一人前になったヤツがどこにいるものか。


 昔は、活気があった。

 全てが輝いとった。


「クソ」

 俺が教育しなならん。

 それを、あいつらは何故分からん。


 窓の外に、雪が見える。

 雪、か。若い頃を思い出す。

 働いて、働いて、その分成果が出て。俺には何でもできると、信じとった。


「おい! 恵子! 飯はまだか!」

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