第3章 偽りの友情(前編)

朝、紗良はいつも通り制服に身を包み、鏡の前で小さく息を吐いた。

「今日も、普通に過ごさなきゃ……」


昨日の出来事――クラスメイトの男子に神谷颯の写真を見せられ、危うく正体がばれそうになったこと――がまだ胸の奥でざわめいている。焦燥感が体全体にまとわりつき、歩く足取りも自然ではなかった。


教室に入ると、いつもの笑顔で迎えてくれる友達がいた。

「おはよう、紗良ちゃん!」

微笑む声に、紗良もぎこちなく返す。

「おはよう……」


しかし、その笑顔の裏に、少しの罪悪感と焦りが隠れていることを紗良は知っていた。


小さな秘密の重み


昼休み、友達と机を囲んで笑いながら昼食をとる。軽い雑談の中、誰も神谷颯の話題には触れない。

「紗良ちゃん、今日の授業、どうだった?」

「うーん……普通かな」

ぎこちなく答えながら、紗良の心は緊張でいっぱいだった。

「もしも、話題にされちゃったら……」

小さくつぶやき、弁当のふたをぎゅっと握る。


友達は何も知らない。ただ普通の女子高生としての紗良を見て、笑い合っているだけだ。だが、その何気ない日常も、紗良にとってはいつ崩れるかわからない危うい時間だった。


偽りの笑顔


午後の授業では、友達がふと冗談を言った。

「紗良ちゃんって、もっと派手でも良さそうなのにね」

「え、そ、そうかな……?」

とっさに笑って答えるが、心の中では動揺が止まらない。もしも自分が颯だと気づかれたら、この笑顔は一瞬で嘘になる。


紗良はノートに鉛筆で落書きをしながら、心の中で自分に言い聞かせる。

「笑って、普通の友達としていなきゃ……」


放課後の孤独


授業が終わると、友達と別れた後、一人で帰る道を歩く。夕暮れの街並みに、昨日と同じ焦燥感が漂う。

「今日も……何とか乗り切った」

安堵とともに、胸の奥に小さな疲労が押し寄せる。友達と過ごす時間は楽しいはずなのに、秘密を抱えることで全てが違って見える。


「私、普通の生活がしたいのに……」

心の奥で呟く声に、誰も答えてはくれない。孤独と罪悪感、焦燥感が絡み合い、紗良は小さく肩を震わせる。

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