第2章 初めての危機(中編)

翌日の教室は、昨日の昼休みの出来事の影響で、紗良にとって微妙な空気に包まれていた。視線が自分に向けられているような感覚が、背中を何度も刺す。


「気のせい……だよね」

小さくつぶやき、机に伏せる。心臓の高鳴りが収まらず、呼吸も浅くなる。


嫌な予感


授業中、男子がこっそりとスマホを取り出すのが見えた。画面がチラッと紗良の方に向けられる。

「……だめ、見ないで」

心の中で必死に叫ぶ。クラスメイトが颯の写真に気づけば、すべてが崩れる。


紗良は手元のノートを強く握り、視線を下に落とす。鼓動が耳にまで響き、指先は冷たく震えた。


放課後の危機


授業が終わり、教室で片付けをしていると、昨日の男子が近づいてきた。

「ねえ、これ本当に紗良ちゃんに似てると思うんだけど……」


紗良は一瞬凍りつき、言葉が出ない。頭の中で何度も「違う、違う」と繰り返しながら、平静を装う。


「そ、それって……偶然じゃないかな?」

ぎこちなく笑い、スマホから視線を逸らす。

男子は眉をひそめたが、深くは追及せずに去っていった。しかし、紗良の心臓はまだ暴れ続けていた。


自分を取り戻す


帰り道、紗良は角を曲がると、人気の少ない公園で立ち止まった。夕暮れが空を赤く染める中、肩を落としながらため息をつく。


「どうして……いつもこんなに怖いんだろう」

独り言のように呟き、目を閉じる。心の奥底では、自分の二つの顔を持つことに対する疲労感が押し寄せる。


しかし、家に帰ればもう一つの世界が待っている。

「……頑張らなきゃ、私」

力を振り絞るように立ち上がり、歩き出す。焦燥と孤独の中で、紗良は自分を奮い立たせるしかなかった。


小さな光


帰宅後、撮影用の衣装に着替え、鏡の前に立つ。カメラの前で微笑む瞬間、少しだけ心が安らぐ。誰も知らない自分の顔を持てること――それが唯一の救いだった。


「……やっぱり、私は颯でもあるんだ」

鏡に映る完璧な顔を見つめながら、紗良は小さな勇気を胸に刻む。


だが、胸の奥にある不安は完全には消えなかった。学校での疑いはまだ消えていない。二つの世界を行き来する少女の心は、今も揺れ続けている。

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