第6話 何はさておき、戦う方法、身を守る方法
■カイト
母猫の毛並みは最高だった。お腹に抱かれるとすぐに眠くなってしまう。
まぁ俺も身体は子猫だし。もともと猫は大人になった後も睡眠時間長めなもんだしな。
もう仕事に行く必要もない。いくらでも寝て過ごせばいい…。思えば前世の日本で働いている時は常に寝不足だった。この世界では、思う存分睡眠をとらせてもらおう。
敵が居ても強い母猫が守ってくれるしな。
もし万が一怪我をしても泉の水を飲めば治るしな。
…それ以前に、どうやらこの泉の周辺には魔物が入ってこないようだが。
お腹が減ったら母猫が乳をくれるし。
母猫は優しい。いつも必ず子供達を見守っていて、危ない時には必ず助けてくれる。こうやって、何の不安もなく、親に守られ無邪気に過ごす子供時代というのは、俺にとっては(前世の日本も含めて)初体験の事だった…。
まぁ、赤ん坊の頃の記憶がある者など居ないだろうけど。ただ、物心ついた幼少期以降にも、親に愛された記憶など俺にはないのだ。
父親は酒とギャンブルが好きで機嫌を少しでも損ねれば暴力を振るうという典型的なクズだった。
母親もまた子供に関心がない、所謂ネグレクトだった。
子供時代、食べるものがない事も多かった。正直、よく生き延びられたなと思うような環境だった。
そんな俺に、母の愛情を初めて感じさせてくれたのが、人間ではなく猫だったとは…。
俺は、“人間” というものに嫌悪感があった。それはそうだろう? ネグレクト同然で過ごした幼少期なのだ。親ガチャに失敗すると、その後の人生もハードルが上がりまくる。正直、ロクな人生じゃなかった。ロクな人間に出会わなかった。俺の運、悪過ぎ…。
微睡みの中、前世の日本の記憶を思い起こし、ほとんど幸せな記憶など思い出せない事に気づいて気分が悪くなって俺は目を開けた。
気が滅入る事を考えていてもしょうがない。もうあの生活からは開放されたのだ。
未来の事を考えよう。
そう言えば、ステータスの確認の途中だったな…。
と思ったらステータス画面が開いた。どうやら心の中で念じるだけでステータス画面は開閉できるようだ。
名前:カイト
種族:Cait Sith
性別:オス
年齢:0歳
状態:健康
MP―100/102
属性:【全属性】
MPの分母は100だった気がするんだが、増えた?
全属性を長押しすると、属性が表示される。
【水】【火】【風】【地】【光】【闇】【無】
属性をさらに長押しすると属性毎に魔法が表示される。
のだが……改めて見ると、なんか少なくね?
水属性魔法
【
光属性
【
無属性
【身体強化】LV2
これだけしかない。
全属性魔法が使えるんじゃなかったのか? 【治癒】と【身体強化】はLV2になってるし。…あ、もしかして俺が使った魔法が表示されている?!
確かに【水】と【治癒】は、母猫の身体の火の消火と治療に使った。特に、治癒魔法に関してはかなり繰り返し使った。それでレベルが上がったと考えるべきか。
【身体強化】は…あれか。小川に居た鉄砲鰐と炎鷲から逃げるのに、必死で走ったから、無意識に使っていたのか?
『全ての魔法が使える』
……なるほどね、そういうシステムか。
ちょっと楽しくなってきた。
試してみよう。
俺は眠っている母猫と兄弟達を起こさないようそっと母猫の懐から這い出した。
つもりだったのだが、ふと見ると母猫が片目を開けて俺を見ていた。
だが、母はそれ以上動かない。目が届く範囲に居ればそれほど心配されないようだ。この泉の周辺であれば安全だと母猫も判断したのだろう。
というわけで、兄弟猫達を起こさないように少し離れ、魔法の検証である。
まずは、何はさておき、戦う方法、身を守る方法だ。
この世界に来て、既に二度襲われた。
どちらも地球の生物よりも危険な存在だった。
戦う力、身を守る力が必要だ。
いつまでも母猫に守ってもらうわけには行かない。
なにせ、前世で母親にネグレクトされていた俺だ。今回もまた同じ事になるんじゃないかという不安が拭えないのだ。というか、そもそも母猫は俺の親ではないからな。子どもと勘違いされてるだけ、ならそのうち、間違いに気付けば相手にされなくなるかも知れない…。
それに野生動物は、子供がある程度大きくなったら強制的に子供を独り立ちさせて追い払うはず。そして(この世界の “魔物” が地球の動物と同じかどうか分からないが)動物の成長は早い。独り立ちするまで成長するのはあっという間だろう。
いつまでこの母猫と兄弟達との生活が続くか分からない。多分。それほど長い時間ではないだろう。
ただ……、その間だけでも、可能であるなら、母猫、兄弟猫達を守ってやれるようになりたいと思った。
親や家族への愛情なんて前世では感じた事はなかったので、そんな思いが湧いてきた自分にちょっと不可解な気もしているが。
まぁこれは、俺を助けてくれた母猫への恩返しみたいなものだ。
前世で愛情なんて感情には全く縁がなかった俺だが、愛は分からなくとも恩は分かる。前世では、俺に親切にしてくれるような人はほとんど居なかったが、ゼロというわけでもなかったからな。お礼、お返しくらいは、俺だってしようって気持ちはあるのさ。
さて。魔法だ。まずは攻撃魔法から…
攻撃魔法と言えば、基本はまず炎系だろうが、俺は【水】属性から試す事にした。
あの炎の翼を持った鷲はおそらく【火属性】だと思ったからだ。母猫はおそらく風属性。そしておそらく、風属性は火属性と相性が悪い……。
母猫は、かなり強い魔物のはずだ。それは抱かれて、触れてみて、その強力な力をひしひしと感じたから分かる。
それに母猫の戦いを見ていたが、空を高速で駆け、風の刃を飛ばしていた。その刃は一撃で大木を切り倒していた。風を防壁のように纏う事もできるようだ。そんな母猫が弱いわけがない。
だが母猫は、炎鷲には苦戦していた。俺はそれは相性が悪かったのだろうと推測した。もしかしたら “天敵” というやつなのかも知れないな。いや、結果的には母猫はあの炎鷲をすべて撃退したのだから、そこまでではないか?
まぁ何にせよ、もし次にまたあの炎鷲と戦う事になった時に、俺が対抗できる属性の魔法を使えれば……。そこで安直ではあるが、火に対抗できる属性はおそらく水だろうと考えたのだ。
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