ハンバーグ根性焼き
氷室凛
第1話
SNSでバズっていたハンバーグを作ることにした。なぜ作るかと言われればこれが単に食べたかったからで済む話ならよかったけれど、残念ながらそうでもなくて、一応それなりの理由があった。彼氏だ。彼氏の誕生日がもうすぐだからリクエストを聞いたところ、「寿司」とかいうまー素人にはいささかハードルの高すぎるお題を出され、いやさすがに無理だわ魚捌いたこともないわ、なにか寿司以外でいい感じのものは……と探していたところ目に入ったのがこのハンバーグというわけだ。
ふむ。いいんじゃないか、ハンバーグ。男子好きそうだし。レシピも難しくなさそうだし。これは一丁、予行演習といきましょう。
うむうむ言いながらパックの挽き肉をフライパンにひっくり返す。いらないツッコミをしないでほしい、こういうレシピなんだから。
挽き肉。ベーコン。塩。砂糖。ナツメグ。その他諸々。材料を全てフライパンにひっくり返す。小説のネタにと思って買ったっきり眠っていたナツメグがこんなところで役に立つとは。
材料を入れたらゴムベラで混ぜる。フライパンの中でゴムベラで混ぜるレシピ、とてもよい。手が汚れないし洗い物も少なくて済む。天才。
挽き肉を混ぜながら考える。領くん(仮名)とは付き合って2ヶ月程になる。お互いいい年だし、当然最初から結婚は視野に入っていた。でも、本当にこのまま付き合って、結婚とかしていいんだろうか。挽き肉を混ぜる。だいたい、そもそも性格が合ってない。私はデートで水族館とか動物園に行きたいのに、そんなのひとりで行けるじゃんと言われてしまった。向こうは買い物とか料理とかしたいらしい。いやそっちの方がひとりでいいじゃん。もう一緒に行くとこないじゃん。あとさー、外で傘振り回したり大声で話すのやめてほしいんだけど。もう30だよ? 学生じゃないんだし、一緒にいて恥ずかしいよ。そして極めつけがこれ。腕に丸い痕がふたつあって、どうしたのって聞いたら、タバコ、って。いやいやそれどういうこと、喧嘩したの? え? いじめられた?? ってそりゃあもう心配したら、いやー別に。じゃんけんで負けたら根性焼きするってゲームしててさー。俺2回負けて。でも3回目は勝ったぜ。俺優しいから2回根性焼きされたのに相手にはしなかったの。まじ優しくない? そのときの傷。とか、笑いながら言うわけ。
いやなにそれ。え、全然意味わかんないんだけど。どういうこと。どういうこと??? じゃんけんで負けて根性焼きする?? 酔っててさーって、普通酔っててもそんなことしないでしょ。待ってもう嘘でしょやばすぎでしょ。ほんともう、どこの世界線だよ。こっちはどう森プレイしてるのにいきなり龍が如くぶち込むなよ。
例えばだよ、将来結婚して子どもとかできて、赤ちゃんがいるときにその根性焼きしてきた友達がうち訪ねてきたりしたら嫌すぎるんだけど。領ー、子どもできたんだって? おめでとう。とか言いながら家入ってきたら本当に嫌なんだけど。恐怖。今すぐ縁を切ってくれ。彼氏とはいえあんまり他人の人間関係に口出したくないけど、これはさすがに口も出る。友達に根性焼きするような奴が子どもになにするかわかんないよ。怖い。そういう友達がいるお前も怖い。よしんば事実だとしても彼女に根性焼きされた話するなよ。いや隠されたら隠されたでもっと怖いけど。
十分に混ぜた挽き肉をまとめていく。なんでこんな激ヤバ彼氏と付き合ってるんだろうな。……なんか、さ。会って2回目のときに熱烈アピールされて、それが嬉しかったんだよね。最近気づいたんだけど、領くん、酔うと自己アピール始まるのがおもしろい。あの時もそうだった。ランチ行って、水族館行って、じゃあその辺でご飯でも食べましょうかって入った居酒屋。私もあの時はだいぶ酔ってて、領くんは俺強いから平気だよとか言ってたけど今にして思えばけっこう酔っていたんだろう。俺、年収何万円あります〜から始まって、凛ちゃんの好きなとこ30個言えるからね。内面編と外見編どっちからいく? って言って、本当に30個言ってくれた。はは、まだ会って2回目だよ?
私は運命とか信じてない。他人をすぐ好きになったりしないし、なんなら人間関係は3年目からが本番だと思ってる。
……でも、だけどさ。これだけ自分のこと好きな人なら、私も好きになれるかなって思ったんだ。
ハンバーグを焼く。フライパンに酒を注いで、蓋をして蒸し焼きに。そういや推しのひとりが歌っていた。売れないラッパーと付き合わない方がいい、歌詞のネタにされるからって。こんな小説家志望とも付き合わない方がいい。極論、クリエイター及びそのワナビとなんて付き合わない方がいい。
蓋を開ける。ふわふわに火の通ったそれをお皿に移す。
さっそく口に入れたハンバーグは、火傷するほど熱くて味が濃くって、領くんが好きそうだなんて思ったりした。
ハンバーグ根性焼き 氷室凛 @166P_himurinn
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