弔いの食事

なかむら恵美

第1話

義弟が、歩いてやって来た。

「兄貴は?」玄関先で問う。

「あっ、今」答えると同時に、

「ごめん、ごめん」夫がやって来た。

コートを着込む。マフラーを結びなおす。

3人で2,3分喋っっていたら、呼び鈴が鳴った。

予約したタクシーが、迎えに来たのだ。

自動ドアが開く。助手席に義弟、後部座席に夫とわたしが並んで座った。

「焼肉じゃんじゃんまで。××支店がいい」

運転手の肩越しから、夫が行き先を指示する。

「はい」すんなりとタクシーが進む。


××支店を指示したのは、○○支店を思い出したくないからだ。

車で5分。一番近い支店は我々にとり、悲しみが重なる場所である。

丁度去年の今頃。

「御節もいいけど、その前に」

新しい店が出来たんだよ、24時間営業の焼き肉屋、結構、美味いの。

義弟からお誘いがあり、6人で鱈腹食べた。

みんな笑った。ニコニコしていた。にも拘らず、、、、。


今年は葬式だらけの年だった。

5月に義弟の妻、8月に長男、10月に長女が他界。

親戚縁者にも訃報の連絡が相次いだ。

義弟の妻が交通事故。信号を渡っていて、車に跳ねられたと聞き、

子供達にも言って聞かせていた。

「いい?信号のない横断歩道は、できるだけ渡らないでね。

信号がある所でも、良く廻りを見て、確認してから渡るのよ」

「はぁーい!」

中1の息子と、小2の娘は、調子よく返事をした。

けれど、ひき逃げされてはたまらない。息子も娘もひき逃げだ。

「えっ?」

警察から連絡を受けた後(あと)の記憶が全くない。


「車なんて、見るのも嫌だ」

「俺もだよ、兄貴」

「わたしも」

三人の胸の内である。自家用車も廃棄してしまおうかと決意する程だ。


焼肉じゃんじゃん××支店は、案外と遠い。

暗い夜道を我々を乗せたタクシーは、途中、途中で滞る。


「だから今年は」提案したのは、夫だった。

「弔おうぜ、あいつらを。みんなで食べに行った、あの焼き肉屋で

思いっきり喰おうや。喰って喰って、喰いまくる」

「正彦(まさひこ)さんが、何ていうかしら?わたしはいいと思うけど」

「大賛成に決まってるさ。あいつも焼肉、好きだからな。俺が出すって言えば、

尾っぽを振って喜ぶよ」

「それは素晴らしい」

「だって定額、食べ放題だぜ。じゃんじゃんは。そうでなければ、ゆきません」


派手な看板前に、タクシーが停車し、我々を降ろす。

「ご乗車、ありがとうございました」

軽く一礼を擦る運転手に、三者三様、礼を言う。

「さぁ」夫が看板を見上げ、意気込む。

「イザ」義弟も腕を軽くまくる。

「勝負!食べるわよぉ~っ!!」

エイエイオ~ッ!!!

夜の8時を過ぎた前で、三者三様。

我々は決意を新たにした。

                                <了>




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弔いの食事 なかむら恵美 @003025

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