第20話 限界を迎えるBerryen、そして…。(瑠実の視点)

2029/8/31(金)PM8:00


 ウチは最後の出勤を終えてスマホを確認すると、見知らぬ番号が通知が来てた。怖いから出ないで家に帰ると、帰宅早々オカンからこう言われる。


「瑠実、夕方頃『カオスミュージック』の秘書さんから電話来てたで、番号はーー」


 オカンから番号を教えて貰って、部屋で電話した。


「もしもし、桑島 瑠実です。返信が遅れてすみません、会社で仕事してましたので」

「いえ、こちらこそすみません。カオスミュージック代表取締役秘書の『秋月一花あきづきいちか』と申します。社長がBerryenの皆さんと、出来れば明日の午後1時にお会いしたい、と仰ってるのですが…。」

「解りました、明日メンバーと一緒にそちらに向かいます」


 と言って電話を切り、メンバー全員にこの事を連絡した、そして翌日の朝。


「それじゃオカン、東京行って来るわ」

「そっか。気ィ付けや、色んな意味で…。」


 ウチらは、急いで東京のカオスミュージック(以降、会社)へと向かった。早速社長室へ行くと、秋月さんがおった。偉いべっぴんさんで、デキる女って感じやな~。そして秋月さんの隣りに座っとる30代半ばの社長さんっぽい人と、その隣に同じく30代半ばの黒スーツにサングラス姿のガタイの良い、強面で角刈りのおっさんがそこに居った。


「初めまして、Berryenの皆さん。カオスミュージック代表取締役の『宮本涼平みやもとりょうへい』だ。右隣りに居るのは君達のマネージーになる『座木文広すわりぎふみひろ』だ。


「初めまして。座木と申します、宜しくお願い致します」


 と深々と頭を下げて来た。この人がマネージャーて、何か怖いわ~…。とウチが思ってると社長が。


「こう見えて彼は料理の腕も確かだし、何より柔道の有段者だから色々安心だろう。そして隣りの彼女は秘書の秋月一花だ。今年の春にT大を卒業したばかりだ」

「T大やて?、めちゃくちゃ頭ええやないすか!」

「瑠実お姉様の言う通りですわ!」

「アルビレオとどっちが賢いか…。」

「ずる賢さでは姉貴が上だろうな…。」

「あの~、私達の事より本題に入った方が…。」


 と秋月さんが言うと、社長が一呼吸置いてこう切り出す。


「そうだったな…。一昨日瑠実が千点さんにネタを売った事を昨日天通さんから聞いて、Berryenをウチの会社からデビューさせてくれないか?、と白羽の矢が立ったのだ。明日の民放の朝のバラエティー番組で報道する」


 と作戦の詳細を語りつつ、社長が続ける。


「明日のお昼のバラエティー番組でデジタトゥのオリコミ1位を報じた直後に、このスキャンダルを報道する。世間は今デジタトゥフィーバーだ。そんな彼女達の里親のスキャンダルとなれば、世間は間違いなく注目する筈だ」

「流石社長、素晴らしい案です!」


 と秋月さんが同調した後、社長が続ける。


「その翌日の朝の情報番組でもこの件を報じつつ、週刊誌も発売し、その翌日の午後2時に記者会見を行なう。出席者は私とお前達4人、司会進行の秋月、そして記者数十名、以上だ。そこで瑠実と桂君との馴れ初めを『私は桂に捨てられました』という体で語って貰う、出来れば泣け。デジタトゥの次のシングルの発売日は10月10日だそうだから、その日にお前達もデビューさせるぞ!」

「桂兄達をトコトン利用するつもりですか社長?」


 とウチが聞くと社長が。


「当然だ。更に私の独自調査によれば、来月5日金曜日のMスタ秋の3時間スペシャルにデジタトゥも出るそうだから、お前達にも出て貰う。大人気作曲家vsその彼に捨てられた少女、という体でお前達に世間の同情を煽ってCDを買って頂くぞ!」

「くくく。ヤミノよ、我らを捨てた事を後悔するが良い!」


 とざくろ姉がいつもの中二病を発動させた途端、社長が。


「ああ、ざくろ。そのアニメのキャラになりきるのは今日から禁止だ、その口調も髪型も、後カラーコンタクトも外せ。それと初、おさげと眼鏡をやめてコンタクトにしろ!、後そのお嬢様口調も駄目だ。それとお前達の正装もゴスロリ風ではなく、流行ファッション風で行くぞ。蒼絵、アレンジもヘヴィメタルではなくギターポップで行け!」

「それって、ミ●チルやス●ッツ、●ミオ●メンみたいな音楽やれ、って事ですか?」

「今迄のウチらと音楽性全然違うやないですか!」

「瑠実お姉様の言う通りですわ!」

「そんな事したら、我らのアイデンティティーは崩壊するではないか!」

「では又介護業界に戻るかざくろ?、そうすれば崩壊するのはアイデンティティーだけでは済まないぞ。他の3人も又、会社員に戻る事になるぞ?」


 社長のその言葉に、ざくろ姉は苦虫を嚙み潰すような顔しながら、こう切り出す。


「ぐぬぬ…。解りました、社長に従います」

「それで良い。お前達にはこれから、専属のスタイリストを付けてやる。それと瑠実、今回メイン曲はお前が作詞作曲しろ。カップリング曲は誰でも良い」

「えっ!、ウチがやるんですか?。一応曲作れますけど…。」

「ああ、実際に体験した者が詞を書いた方がリスナーも納得するだろうからな。以上がデビュー迄の主な流れだ、その間も関係各所への挨拶回りに励んで貰う。後の手筈は座木に聞け、早速曲作りに取り掛かって貰うぞ。歌詞は『私は彼に捨てられた』的な内容で書け。最後にMスタ出演迄の間、桂君達との接触は一切禁止だ、以上!」


 こうしてウチらは、今日の午前中にウチと桂兄の馴れ初めが各バラエティー番組で報じられ、一気に世間の注目を浴びた。翌日に週刊誌が発売され、ウチと桂兄のちゅープリとベッドでの裸画像が袋とじで販売され、世間一般の話題はほぼそれ一色になってもうた。


2029/9/4(火)


 午後2時に記者会見が始まり、社長の指示通りに皆、現代の流行ファッション風で登場し、ウチは桂兄の悪口を泣きながら大げさに語った。ざくろ姉は中二病を一切発動させず、クールに淡々と質問に答えた。その翌日に、デジタトゥ側もウチらに対抗するように記者会見をやっとった、スマン皆…。


 その翌日、社長の言う通りに歌詞を書いてそれに合う曲を添え、蒼絵姉も社長の望むギターポップ風のアレンジを、2人共何度もボツを喰らいながら漸く完成させた。Mスタ出演迄の約1か月間、ウチらは全国の関係各所への挨拶回りに勤しんだ…。


2029/10/5(金)PM1:00


 いよいよ迎えたMスタ出演の日。ウチらはお昼ご飯を食べた後にスタジオ入りし、出演者全員とお偉いさん方に挨拶回りを行ない、いよいよデジタトゥの控室の前迄来て、座木さんが静かに低めの声でこう切り出す。


「皆さん、心の準備は良ろしいですか?」

「問題無い、すめらぎよ!」

「『すわりぎ』です、ざくろさん」

「ウチは大丈夫やけど、桂兄はきっと怒っとるやろな~…。」

「姉貴にボコボコにされる覚悟しといた方が良いかもな?」

「蒼絵お姉様の言う通りですわ…。」


 初姉がそう言うと、座木さんがノックしたら古田さんが出て来て促され、ウチらはデジタトゥの控室へと入って行った。中にはデジタトゥと古田さん、桂兄、そして妊娠9ヶ月位のあびる姉が居った。そんな中、座木さんがこう切り出す。


「本日共演させて頂きます、Berryenと申します。宜しくお願い致します」

「宜しくお願い致します!」


 とウチら全員で頭を下げた後、古田さん、桂兄達も同じように挨拶を返した直後、あびる姉が何を想ってか?。


「すいません皆さん、一旦あーし達とBerryenだけで話がしたいんですけど、良いですか?」

「がっはっはっはっは!、解った。但し、乱暴な事は絶対するなよ?」


 と古田さんが言って、ウチら8人以外には一旦退出して頂いた。兎にも角にも最初に謝らなアカンと思ったウチは、真っ先にこう切り出す。


「スマン皆、週刊誌にネタ売ってもうて!」


 と言いながら深々と頭を下げた、それを見たあびる姉が能面の表情で。


「頭を上げなよ、瑠実っち。先ず何であんな事したの?、折角あーし達が根回ししてたのに…。」

「もうこれ以上皆が壊れて行くのを見てられへんかったんや!。初姉は来月から福之原店に飛ばされるトコやったし、ざくろ姉はもう心が崩壊する寸前やった。蒼絵姉も出勤時間バラバラで体調おかしくなってたし。いつデビュー出来るか解らん以上、ああするしかあれへんかったんや!。あびる姉は明未姉が掛け替えの無い大切な存在やろ?、それと同じ位、このメンバーはウチにとって大切な存在やねん!。ウチらどんな制裁でも受けるさかい、煮るなり焼くなり好きにしたってーな!」


 ウチが一通り謝罪し終えると、あびる姉が一呼吸置いて。


「今『何でもする』って言ったよね?。じゃあ今度、皆の手料理を振る舞ってよ。で後片付けもお願いして良い?」

「えっ!、そんな事でええんかい?」

「だってあーしもそのつもりだったもん」

「ど、どういう事やねん?」


 戸惑うウチらを他所に、あびる姉が更に続ける。


「あーしの計画は先ず、安藤事件の一斉報道に便乗してデジタトゥをデビューさせてバズらせ、99キロランナーとして完走して人気を得た後に、瑠実っちに例の写真を週刊誌にネタ売るようにそれと無く仕向けた後、ウチの社長と仲良い社長さんのレーベルから、君らをデビューさせて頂くように根回ししてたんだよ。こうすればデジタトゥもBerryenも両方大ブレイクするっしょ?」


 あまりの計画のぶっ飛び方にウチは思わず。


「何やねんそれ?。それじゃウチらは、あびる姉の手の内で踊らされてたっちゅう事やないけ!」

「瑠実お姉様の言う通りですわ!、てかコンタクト未だに慣れませんわ…。」

「それなら何でフォビさんからデビューさせてくれなかったんだよ?」


 蒼絵姉の問いにあびる姉が。


「人ってのはねえ、対立し合ってるとどっちかを応援したくなるんだよ。だから別の会社にして頂いたんだ。ウチからだと茶番ってバレるからね~、仲良く手を取り合う姿で応援されるのは最初だけだよ~♪。それに新会社設立は莫大なお金が掛かるし、かと言って成功する保証も無い。だったら今回の騒動で得られる収益を運営資金にしろ、って森田さんが旧知の仲の宮本さんに言ったんだよ。それより皆どうしたのさ、その垢ぬけた今風の格好。特にざくっち!」


 ざくろ姉のあまりの変わり様には、流石のあびる姉も驚きつつ、桂兄も続けて。


「お前達のMV観たぞ。確かにクオリティーは上がってたけど、思いっ切り様変わりしたな、格好も楽曲も…。」

「仕方無いではないか?、社長の命令なのだから!」

「ざくろお姉様の言う通りですわ!」

「こんなアタシらなんか、ロックじゃねえ!。例え売れたとしても…。」


 こんな感じでやり取りしてると、明未姉が何を想ってか?。


「でも皆、良い意味で変わってなくて安心したよ~」

「ボクもっす!」

「じゃあそんな皆にあーしから更なる提案がありま~す!」

「今度は何を企んでんだ姉貴?」

「今度のCD対決で、もしデジタトゥが勝ったら君らには後日、体操着にブルマーでデビュー曲をパフォーマンスするってのはどう?」


 あびる姉の更なるぶっ飛び案に、ウチは思わず。


「なっ!、何でそんな事せなあかんねん?。てか体操着にブルマーって、ウチのオカン世代やぞ!」

「瑠実お姉様の言う通りですわ!」

「そんな恰好したら、折角社長が作ったイメージが壊れるだろ姉貴?」

「てか何で体操着とブルマーなのだ、アルビレオよ?」


 ざくろ姉の問いにあびる姉が。


「以前N●B●8が1位取れなかったら後日、体操着にブルマーでライブする、っていう罰ゲームを賭けた企画があったんだよ、結局僅差で1位になって免れたけど…。ここ迄来たらトコトンバッチバチにやり合って世間の注目をかっさらおうよ!。で、君らが勝ったらあーしらは何をすれば良いの?」


 あびる姉の問い掛けに、ウチは。


「何をして欲しいって…。ウチらは許して貰えただけでもう充分やねん、これ以上迷惑掛けた無いわ…。」

「瑠実お姉様の言う通りですわ…。」

「だったらアタシらも、都立競技場に出させて貰う、ってのはどうだ?」


 ぶっ飛んだ事を言う蒼絵姉に、ざくろ姉が。


「どういう事だ、アイオリアよ?」

「年明けにデジタトゥが都立競技場でライブやるんだろ?。それにゲストとしてアタシらも出させて貰うって事だ。アタシらも日本一デカい箱でライブやってみたいんだ!、まだ2曲しか無いけど…。」


 蒼絵姉の問い掛けに、あびる姉が少し考えて。


「ならこうしよう。本番中にデジタトゥのMCの時、蘭姉ちゃんと瑠実っちが言い争う感じでこの企画を発表するってのはどう?、めいみんは言い争うの苦手だし、Berryenは素のキャラ出せないし、特にざくっちが…。」


 こうしてあびる姉達に許して貰いつつ、茶番勝負をする事をお互いのマネージャーに報告してOKを頂き、本番に臨む事になった…。そして本番、ウチらは(主にウチと蘭姉が)言い争いを装いつつ、勝負という名の茶番を演じながらお互いに新曲を披露し合い、本番を終えた。そして10月10日、いよいよウチらがメジャーデビューするんやけど、同時に大変な事が起こっとった…。

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