第19話 Berryen、社会の厳しさを知る(瑠実の視点)
2029/4/2(月)
ウチは前日にフォビさんの寮で蒼絵姉、明未姉、あびる姉の合同生誕祭と、ウチらの就職祝いを盛大に行ない、その日の夕方に急いで地元に帰って今日は眠い目を擦って、ナイリス庄山宮城支店の入社式に出席した。午前中に宮城の統括部長さんを中心としたお偉いさん方のご挨拶で、午後は新入社員の歓迎会でご馳走を振る舞われた。
翌日。3、4、5、6と研修を行ない、ウチの配属先は米登工場。つまり皮肉にも、かつて桂兄がデビュー直前迄勤めてた所に配属された。
2029/4/9(月)
配属初日。桂兄もこれと同じ作業着を着てここで仕事してたんやろうな~…。と想いにふけりつつ、早速スキャナーの使い方、ハンドリフトの扱い方、検品等、覚えなきゃいけない事が山のようにあり、頭パンクしそうになったわ、しかも毎日2時間定時残業で土曜日も出勤やし…。桂兄はこれをやりながら音楽活動してたんやな~、ホンマに関心するわ…。
金曜日の午後7時、残業を終えてRUINEを確認すると、あびる姉から来とった。『瑠実っち~、あーしら今度の日曜日に鹿の城公園のお花見祭り見に行くんだけど、あーし秘密のスポット知ってるから一緒にお弁当食べよ~!』という内容だった。『別に構へんで』と返信して、当日に備える事にした。
そしてお花見当日、まさかあんな事になるなんて思えへんかったからホンマに驚いたわ…。ウチらはそれ以降も仕事を一生懸命勤めながらも、オカンの家事を手伝いつつ、ドラム練習、作詞作曲をこなして行った。てかウチは休みが固定されとるけど、他の3人は休みが不定期やから中々都合が合わへん。これじゃライブ出けへんわ…。
そんな中、5月5日にデジタトゥ初のライブを武道館で行なうそうで、他の3人はどうしても休めへんとの事で、ゴールデンウィークが休みのウチがBerryenを代表してライブを観に行く事になったんや。
2029/5/5(土)
朝一、ウチは朝食を急いで食べて身支度して車で粟駒高原駅へ行き、新幹線で東京に向かい、桂兄達の寮へ向かった。武道館でデジタトゥの初ライブ、ホンマに感動したのと同時に、13歳の彼女らがドンドン成り上がって行くのを見て『18歳のウチらは何してんねんやろ?』とさえ思えて来た…。ライブと打ち上げ終了後、ウチは蘭姉の部屋に泊めて貰う事になった。お風呂に入り終えて、ウチがこう切り出す。
「折角やから蘭姉の事、改めて聞かせてくれへんか?」
「了解っす!。ボクの元母さんは運動が得意で勉強が苦手っす、元父さんは運動が苦手で勉強が得意っす。つまり元姉さんは元母さんの運動神経と元父さんの学力を、ボクは反対に元父さんの運動神経と元母さんの学力を受け継いでしまったっす…。」
「又難儀やな~…。」
「そのせいで、小さい時から元姉さんは元両親や周りからいつも褒められ、ボクは反対に元両親からいつも冷遇され、周りからも注意されて来たっす。そして中学に上がってバスケ部に半強制的に入らされて、それらがピークになってったっす」
「運動部は1軍の巣窟みたいなモンやからな~…。」
「1年の秋頃、部活終了後皆にユニフォームを渡されたんすけどボクだけ貰えず、1軍共がそれを面白がってボクの替えのTシャツに『19』って勝手に貼り付けてそれを無理矢理着せて来て、そのまま帰らされて2学期の中間テストの酷い結果と一緒に、元家族から責められたっす。そしてその翌日、そう、坂沼小で学芸会があったあの日のお昼前に、あの大惨事に遭わされたっす。お陰でボクの初めてのS●Xは悲惨な物となってしまったっす…。」
蘭姉の表情が段々暗くなって行くのを見兼ねて、こう言ってやった。
「それは●EXとは言わへんねん、そいつらが蘭姉の体を勝手に使ったオ●ニーや。S●Xはお互いが気持ち良くなる為の行為やねん。蘭姉は気持ち良くなかったやろ、そん時?」
「そりゃそうっすよ!、何であいつらなんかと…。ごめんっす、ついムキになってしまったっす…。今の言葉、明未クンにも話してあげるっす。ボクも明未クンもその時の事がたまにフラッシュバックして、その度に過去に戻って追体験するような苦しみに苛まれるっすから…。」
「そうしてあげたらええ、話してくれてありがとな。最後にウチも、そいつらの事絶対許さへんねん。あと蘭姉と出会ってすぐの頃に『そんなんやと売れへんで!』と言うたけど、見事に先越されてもうたわ、ああいう事言うてゴメンな…。さあ、明日も忙しいやろから、今日はもう寝よっか?」
こうしてウチは、蘭姉共々明日に備えて寝る事にしたわ…。
翌日、お昼ご飯で泊めてくれた皆にお礼としてたこ焼きを振る舞ってタコパし、明日から又仕事がある為、午後イチでウチは宮城へと帰って行った…。
その後もたまに他のメンバーと連絡取ってみると、初姉は仕事の伸びが他の同期より遅く、その事でパートのおばちゃんや正社員さんにしょっちゅう怒られとるそうや…。
ざくろ姉はお年寄りのお世話が想ってた以上にキツイらしく、初姉同様に仕事も中々覚えられず人間関係にも悩み、更にそのお年寄りのご家族からのクレーム対応で精神的に参り始めとるそうや…。
ハイスペックな蒼絵姉でさえも、昼夜バラバラな生活でクレーム対応とかで相当疲れとるみたいや。そんな中でのギター練習や作編曲の勉強を何とかやっとるらしい…。
かく言うウチも、真夏の暑い中、ハンドリフトでの運搬やらパートさんと上司の板挟みで心身共に段々しんどくなって来た、そんな中…。
2029/8/22(水)
午後7時、ウチはいつものように定時残業を2時間終えて帰ろうとしたら、蒼絵姉からLUINEが来てた。『ルミー、今丁度3人集まってる。もし来れそうだったら来て欲しい、あまり時間は取らせないから』という内容やった。ウチはオカンに遅くなると連絡する為に電話した。
「もしもしオカン、ウチ蒼絵姉ん家に寄って帰るから遅くなるさかい」
「ホンマに~?、彼氏出来たんちゃうか?」
「ホンマに蒼絵姉んトコや!、久々に4人で集まんねん!」
「そっか…。明日も仕事やろから、あまり遅くならんようにな」
オカンとの通話を終えて急いで蒼絵姉ん家に向かい、玄関先で蒼絵姉に出迎えられて部屋に入ると、皆社会に出始める4カ月半前と比べて明らかに疲れ切った感じやった、ウチもやけど…。4人でテーブルを囲んで座ると、蒼絵姉がこう切り出した。
「皆、さっきオリコミのCDシングルランキング、デイリー部門を見たら、デジタトゥが初登場1位で、200万枚以上売り上げたそうだ」
「初日でダブルミリオンやと?。幾ら99キロランナーに選ばれて世間から注目されてるとはいえ、売れ方おかしいやろ!、CDはもう売れへんちゃうんかい?」
「瑠実お姉様の言う通りですわ!」
「光の巫女と闇の巫女、そしてヤミノはどんどん高みへと上がっておるのに、我らは何の進展も無く地を這う日々とは…。」
「ちなみにどっちが光でどっちが闇やねん?」
「明未が光で蘭が闇だ。理由は蘭が以前、明未を連れて家出するように誘ったからだ、ていうか…。」
とが言うと、ざくろ姉が更に一呼吸置いて、「もう無理、辞めたい今の仕事!」と言って泣き出し、職場での愚痴や不満を吐き出した、初姉も続いて。
「わたくしもですわ!。お盆の繁忙期に店舗に泊まらされてベースの練習も出来ませんでしたわ!。しかもわたくし、来月から福之原店への転勤が決まってしまいましたわ、皆さんと離れ離れになるのは嫌ですわ!」と言いながら涙ぐみ、ざくろ姉同様に職場での愚痴や不満を吐き出した、蒼絵姉も続いて。
「福之原って、少し南に行ったら福島だろ?。ウチの地元も少し北に行ったら岩手だからほぼ宮城の端と端じゃねえか!。てかアタシも仕事の功績と空手の腕前を評価されて、来月からサブチーフにさせられるんだ。そうなるとますます音楽活動どころじゃなくなるぞ!」
「今の仕事を頑張れば頑張る程、逆に夢から遠退いてる気がするぞ!」
「ざくろお姉様の言う通りですわ!」
「姉貴と社長、いつアタシらをデビューさせてくれんだ?、頭に来たから文句言ってやる!」
そう言ってスマホを手に取り、電話しようとする蒼絵姉をウチは「そんな必要あれへん!」と止めた。
「何でだよルミー?。このまま姉貴と社長の戯言に付き合ってたら、アタシらが先に潰れちまうぞ!」
「蒼絵お姉様の言う通りですわ!」
「このままでは我ら、闇堕ちしてしまうぞルミナスよ!」
「ならこっちから先に仕掛ければええねん」
「どういう事だルミー?」
「最後の切り札を使うんや。この方法を今やればウチら、絶対デビュー出来るで!。出来ればこの方法はやりた無かったんやけどな~…。」
「そんな方法があるのか?、早く教えろルミー!」
「蒼絵お姉様の言う通りですわ!」
ウチは一呼吸置いて、こうり出した。
「週刊誌の千点スプリンターに、ウチと桂兄の馴れ初めをネタとして売るねん!」
「待つのだルミナスよ!、そんな事しても門前払いされるだけだぞ?」
「ざくろお姉様の言う通りですわ!」
「アタシもそう思う。他の人も嘘ついてそうだし、似たような事考えて」
「証拠を見せたらどや?」
ウチがそう言いながら、以前桂兄と裸で一緒にベッドで写真撮り合った画像と、お互い口づけし合ったプリクラのシール写真、所謂『ちゅープリ』を見せた。
「嫌ー!、汚らわしいですわ~…。」
「ぐぬぬ、貴様ら何とはしたない。我が眷属の名折れだ!」
「お前ら、アタシらの知らないトコで、性の悦びを知りやがって~!」
「と言いながら皆、まじまじと見とるやないけ?。兎に角これを見せれば、流石に信用して貰えるやろ。別れてすぐの時に捨てよう想てたけど、捨てずにとっといてホンマに良かったわ…。」
ウチがそう言いながら一呼吸置き、こう切り出す。
「最後に皆に確認しておきたいんやけど、これ世に出たらもうウチら、後に退けへんで。アンチもぎょうさん付くと思うねん、主にデジタトゥファンから。他のアーティストより茨の道になるやろうけど、それでもええか?」
「おおよ!。お前らと一緒なら、どんな困難でも絶対乗り越えられる筈だ!」
「蒼絵お姉様の言う通りですわ!」
「くくく。ヤミノよ、トコトン利用させて貰うぞ!」
「全員、満場一致やな。皆今月末で会社辞めなあかんくなるから、今の内に退職願用意せなあかんな~。ほな今から千点スプリンターに電話するで!」
こうしてウチは、千点スプリンターに連絡を試みた。電話終了後、蒼絵姉が。
「どうだった?」
「『ウチ、今月末で会社を辞めるので、今度の日曜日にそちらにお邪魔しても良ろしいでしょうか?』て言うたら『では日曜日に詳しくお聞かせ下さい』て言われたわ」
「いよいよ我ら、闇の覇道への第一歩を踏み出すのだな。身震いして来たぞ!」
「ざくろお姉様の言う通りですわ!」
こうしてウチは4日後に、皆を代表して東京の千点スプリンターの編集部に行き、編集長に例の写真を見せつつ、桂兄との馴れ初めを全て話した。
「以上が、ウチと桂兄との馴れ初めですわ」
「解りました、わざわざ情報提供して頂き、有り難う御座います。でしたらウチの雑誌の発売日は毎週月曜日なので、その前日に各バラエティー番組で一斉報道する、というのはどうでしょう?」
「解りました。それで宜しくお願いします。公表するのは9月1日以降にして頂けますか?、ウチら全員8月31日迄は一応まだ、それぞれの会社に勤めてますので…。」
「解りました。最後に、この写真とプリクラの著作権は我が社に帰属する、という事で良ろしいでしょうか?」
ウチは桂兄との楽しかった想い出や優しい笑顔が頭をよぎりつつも、「構いません」と返事し、編集社を後にして一旦宮城に帰った。帰宅後、編集社での会話の内容を、LUINEで3人に伝えた。ちなみに蒼絵姉は26時間TVの終盤、ナイソックスの警備員として蔵部スタジアムの体育館内の警護に当たり、明未姉と蘭姉にバレないように警護してたそうな…。
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