第2話

2024年5月28日

変わらず蝉の五月蝿い雨の日だった。

「電車に飛び込もう」

そう言ったのは碧だった。

「電車って、、駅まで行かなきゃいけないじゃん」

面倒だよ、と言えば確かに、、と碧も面倒そうな表情を浮かべた。

私は足跡がつき破れたプリントを綺麗に整えて、それに、と続けた。

「駅だと駅員がいるでしょ、どうするの」

「それは考えがある」

駅までのアクセスは考慮してなかったのに、これは考えていたのか。

そんな嫌味めいたことを言いつつ、碧の考えを聞く。

「最寄り駅は有人駅だけど、調べたところ同じ路線には無人駅が多いの。」

「何駅か電車に乗って、次の電車に飛び込むってこと?」

うん、と碧は頷いた。悪くはない。

「で、問題が駅までのアクセス。」

最寄り駅までは徒歩30分、自転車に乗っても10分はかかる。

電車は1時間に1本、放課後に実行するのは現実的ではない。

「駅までの距離と電車の時間を考えると、放課後は無理じゃないかな。」

「ええ、、休日に抜け出すのは無理だよ」

碧の話によると、彼女の親は休日に彼女が外出することをよく思っていないようで、しばしば止められたり帰宅後に叱られたりするそうだ。

「どうせ死ぬなら家出でもいいかな」

ぼんやりとつぶやく彼女を見て、私は恐る恐る口を開いた。

「じゃあさ、、家出して逃げようよ、どっか遠いところまでさ。だめだったら死のうよ、ね?」



”死にたくない“

そう思い始めたのはいつ頃だっただろうか。

いじめを受けていようと家族との関係がうまくいかなかろうと、生きてさえいればいつかは何とかなるのではないか。

そんなことを考えるようになった。

考えるたびに申し訳がなかった。

生きたいと願う度に、死にたい碧を裏切っているような気がしてならなかった。

せめて、代替案を出そう。

そう思って考えたのが家出だった。

「、、ごめん、一緒には死ねない。」

碧の顔を見ることができなかった。

汗が背中を伝う感覚が気持ち悪かった。

周りの音が、私の耳にだけ届いていなかった。

「一緒に死んでくれないの?」

ひゅ、と一瞬呼吸が出来なくなった。

ごめん、としか私は言えなかった。

ただ、罪悪感に苛まれた。

その日のことはあまり覚えていない。

このときの私は最低だったと今でも思う。

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君が生きててよかった。 @wakakusa0208

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