月みぬおもひ竹取物語Fromかぐや

M6363

現代と水月の物語


「なぁ、アニキ!まだ満月にならないね。」


​僕は1500年に1度しか見れないギガントムーンを観たいと、妹のかぐやに言われ、渋々と町で一番月が綺麗に見える夜月山にたどり着いた。


​夜月山は昔からデートスポットで有名だが、何が悲しくて妹とこなけりゃいかんのか…。

髪はボサボサで、穴の空いたジーンズを好んで履いている。


お気に入りのパーカーは、狼男が月を噛るイラストが印刷されたものだ。


「おしゃれとはなんぞや?」と言わんばかりの出立ちで、かぐやは、天体望遠鏡を

覗いて騒いでいた。


その時、耳障りな緊急地震速報が、僕のスマホから鳴り響いた。


​「大きな揺れを感じたら、安全な場所まで逃げて下さい」

​安全な場所って、この山頂で具体的にどこなんだよ、と心の中でツッコミを入れた瞬間、

地面がめりめり、と鳴り揺れる。


​僕は、揺れに夢中で天体望遠鏡にしがみついている妹の身を無理やり屈めさせ、二人分の安全を確保した。


ギガントムーンから星屑の様な、淡い光が

かぐやに差し込む。


かぐやが淡く光を放つ。


「おにぃちゃぁん…。怖い。」


「何かが頭の中へ流れてくる。」


「…………。」


かぐやは、そのまま小さく


うずくまる。


🌕️


「文月は、どこ…。」

声や姿は僕の知っているかぐやだが…。


仕草や動きが艶かしく、どこかの遠くを、見詰め物悲しげであった。


「おい…。かぐやだよな。」

かぐやは小さく頷く。


「そうだけど…。」


「その名で呼ばないで、あんまり好きじゃないの…。」


「水月がいい。」


夜月山の山頂に、夜明け前の冷たい風が吹き抜けていった。


僕はうずくまる妹に、毛布を

そうっと、かけてやる。


彼女の唇は紫色に震えていた。


​「分かった、かぐや…いや、水月。」


「僕は武蔵、君の兄だよ。」


僕は静かに言った。


「落ち着いて、今何が起こっているのか、最初から全部、話してくれないか?」


僕の知るかぐやではない、

水月という名の女性の記憶が宿った妹は、

遠い過去を見つめ、語り始める。


​妹の口からでてきたのは

1500年前の悲痛な物語だった。

🌔


「私は水月…。」


「門屋の貧乏貴族、碓氷惣次郎の娘。」


「幼い頃から病弱な弟、文月の薬代とお家を守る為に、遊女の元締め、九郎右衛門の元へ行ったの。」


彼女の瞳は悲しみで潤んでいた。


その美しさと品格、知性が商品価値を高め、

都の有力者である五人の貴族と商人たちを相手にさせられたこと。


彼女を奪い合うあまり、彼らが用心棒を雇い殺し合いを演じたこと。


その様子を見て九郎右衛門が「まだ金になる」とにたり、にたりと頬笑んだこと。


僕は、ただ黙って聴くことしか

出来なかった。


🌗


「ある日、九郎右衛門が私の腕を掴み、命じたの。」


「帝の成人の、式典でお前の、得意な舞いを披露しろと…。」


「そこで、私は、帝の目に留まったのです。」


僕は、疑問が浮かぶ。


水月の両親は、この時、何をしていたのか?

そもそも遊女に…。なんて僕は

信じられない事だった。


その疑問をかぐやの中にいる

水月にぶつける。


すると何を想っているのか、

夜に浮かぶ月を見詰め


「母上は、流行り病で亡くなりました。」


「父上は…あの人は、可哀想な人なの。」


それだけ言うと口をつぐみ

僕に一言

「あの…、ありがとう。」と伝える。


そしてまた過去を語り始める。


🌒


帝は私を側室に望んだ。それは、

当時の帝の婚約者、正室の激しい嫉妬を

招いた。

正室は私を亡き者にしようと野盗を雇い

襲わせた。


​「九郎右衛門は金になる私を、守ろうと傭兵を雇ったけれど、野盗の方が狡猾でした。」


「彼らは、私の、私の…。」


「弟、文月を誘拐したのです。」


​かぐやが小さく震え唇を噛み締める。


かぐやの中にいる水月は、この瞬間を再び

追体験しているのだろう。


「野党は、私に一通の手紙を渡しました。」


「そこには、文月の小さな小指と一緒に、文月の命が惜しければ一人で、夜月山に来いと書かれていました。」


「私は弟を守るために、一人でこの山へ向かいました。」


「ですが、向かう前に…。」


​水月は、帝に最後の賭けに出たという。


弟と家を守ってくれるなら、帝の側室になる、と救援の条件を伝えたのだ。


​山中で野盗が文月を殺害しようとした瞬間、帝の兵に取り囲まれた。


野盗は捕まり、水月は約束通り、帝の側室となった。


​水月は文月と家を守れた喜びを噛み締めた。


そして、何よりも彼女自身を、大切にし、

慈しむ帝に、次第に心を引かれていったという。


🌑


「私が人として、女性として、愛される喜びを、感じられた最後の時間でした。」

水月の口調は、喜びと同時に、それが長く続かなかったことを示していた。


​「幸せは、すぐに終わりました。」


​水月を想い続ける帝を許せない正室は、帝の食事に毒を盛り、殺害した。


​そして、その罪をすべて、私に着せる。


「私は斬首の刑に処されこの世を去りました。」


かぐやの身体から、冷たい空気と悲しみが

発せられる。

僕の心が、


「ふざけるな、そんなことって…。」と

叫んでいる。

だが、妹の真っ直ぐな瞳は、嘘を言っていない。


​水月の死後、父親の碓氷惣五郎は

娘の悲劇的な最期に心を痛める。


残された息子文月に対し、水月に関する

「嘘の物語」を書き残した。


自らも責任を取り切腹して果てた。


​残された文月は、お寺に出家した。


しかし、家族を失った悲しみは深く、

彼は齢14歳という若さで命を落とした。


​「文月が、その短い生涯の最後に、家族の出来事を綴ったのが、(竹取物語)です。」


​「真実を隠蔽し、姉を月に帰った天女として描くことで、父の残した嘘を完成させたのです。」


​僕は、目の前のボサボサ頭のパーカーを着た妹を見詰る。


あまりにも悲しく、そして崇高な「竹取物語」の真実を、ただただ受け止めるしかなかった。


​夜が明けていく。ギガントムーンは消え去ろうとしていた。


「もう時間が終わる…。」


「お願いです。」


「文月の元へ、私を連れて行って…。」


そう言うと「フナャ?」と声と

共にいつものとぼけたかぐやが

現れる。


🌘

後日、僕は文献を読み漁り文月の墓を

見つける。

妹のかぐやと一緒に花を添える。

「アレッ何でだろう?!」

と言いながら涙が溢れるかぐやを

僕はみていた。














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