第21話:冥爵位の指輪

静まり返った部屋の空気は、先ほどよりも一層張り詰めていた。

知識ではなく、制度そのものが語られようとしている――


「――次は、爵位制度と魔法についてご説明いたします」


「冥界帝国ネザールにおいて、 爵位とは単なる身分ではございません」


「だろうな」


ゼルファスは腕を組み、続きを促した。


「爵位とは、力を行使する資格。

 そして――魔法を扱う権利そのものでございます」


「権利、か」


「はい。 魔界では力がすべてですが、

 無秩序な力の行使は、帝国によって厳しく制限されております」


セレネは淡々と語る。


「爵位は、皇帝陛下と宰相マルディウス様の裁定によって決まります。

 血筋でも、申告でもございません」


「完全な実力主義だな」


「左様でございます。

 闇のオーラの規模、質、制御力。そして、帝国への献身と実績――

 それらすべてを加味して決定されます」


セレネは一つずつ、言葉を刻むように続けた。


「爵位の序列は、以下の通りでございます」


「皇帝→上級王→王→大公→公爵→侯爵→上級伯爵→伯爵→子爵→男爵(女爵)

 →魔騎士→上級魔兵→魔兵」


ゼルファスは無言で聞き、やがて言った。


「上に行くほど、できることが増える」


「はい。

 特に上級王・王・大公・公爵には、魔界の国が与えられます。

 皇帝陛下は、帝都ルグ=ネザールを直轄されております」


「侯爵以下は、配下というわけか」


「功績次第で昇爵は可能でございます」


セレネは一拍置き、声の調子をわずかに変えた。


「そして――

 魔法を扱えるのは、叙爵された者のみでございます」


ゼルファスは視線を向ける。


「生まれ持った力じゃない、ということだな」


「はい。 魔法は、皇帝陛下より賜る 冥爵位の指輪によってのみ行使可能です」


そう言って、セレネは静かに自らの右手を差し出した。


白く細い指。

その薬指には、赤黒く鈍い光を放つ指輪が嵌められている。


「……それが」


「はい。これが、冥爵位の指輪でございます」


ゼルファスは目を細めた。


「セレネの物か」


「左様でございます」


セレネは誇示することなく、淡々と告げた。


「わたくしの階級は、魔騎士。これは、その証でございます」


「魔騎士……」


「上級魔兵の上位の階級でございます」


ゼルファスは、指輪から目を離さずに言った。


「二つ名もあるんだろう」


一瞬、セレネの表情がわずかに揺れた。


「……はい」


そして、静かに告げる。


「〈氷静の淫魔〉――それが、わたくしの二つ名でございます」


「随分と、らしいな」


「光栄でございます」


冗談とも皮肉とも取れるその言葉にも、 セレネは動じない。


「冥爵位の指輪は、 本人の闇のオーラを燃料として魔法を発動させます」


「自分自身を使う、というわけか」


「はい。 指輪は器に過ぎません。 力を生むのは、あくまで本人です」


セレネは続ける。


「指輪の階級が高いほど、使用可能な魔法の種類は増え、

 威力・持続時間・射程も向上いたします」


「だが――」


「はい」


「指輪に見合わない闇のオーラでは、使えない」


「その通りでございます」


セレネは即答した。


「無理に使用すれば、自壊、暴走、魂焼却――

 最悪の場合、闇のオーラそのものが崩壊いたします」


ゼルファスは、静かに息を吐いた。


「枷でもあり、刃でもある」


「まさに、その通りでございます」


セレネは頷く。


「なお、闇のオーラの性質は、悪魔ごとにがございます。

 そのため、既存の系統に属さぬ

 が生まれることもございます」


ゼルファスの胸奥で、黒炎が静かにうねった。


「……例外は、常に出る」


「はい」


セレネは慎重に続ける。


「そして、ゼルファス様の黒炎は――

 既存の分類を逸脱する可能性が高いかと存じます」


ゼルファスは、わずかに笑った。


「問題か?」


「観測不能、という意味では」


「なるほど」


力は、測られる。

管理され、裁かれ、そして許される。


冥爵位の指輪。

爵位という制度。

魔法という武器。


ゼルファスは理解していた。


この帝国は、力を恐れているのではない。

力を制御できぬ者を、恐れているのだ。

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人間を捨てた日、異界の扉が開いた 影守 玄 @Kage01

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