第16話:偽りの顔、闇の配下
ディアブロが手を掲げると、
砕けた魔法陣が再び光を宿し、
裂け目のように黒い亀裂が広がっていく。
その亀裂から、獣にも人にも見える影がゆらりと姿を現した。
黒い皮膜の翼。
しなる尻尾。
人間に似た骨格を持ちながら、どこか異界の肉体。
それは悪魔の一種――
シェイプシフター、レムロス。
レムロスは姿を現すなり、広間を見渡し、息を呑んだ。
「……なんという……。
このオーラ……信じられぬ……!」
その視線は、ゼルファスへ向けられていた。
ゼルファスの周囲にはまだ黒い靄が立ち込め、
生命のオーラと闇のオーラが絡み合うように渦を巻いている。
レムロスの瞳が揺れた。
「悪魔でありながら…… 人間の生命力の波動が同時に混在している……?
しかも、この“量”…… もはや高位悪魔に匹敵するほど……!」
ゼルファスは静かに見返すだけだった。
ディアブロが低く笑う。
「こやつは特別だ。
人間の魂を捨てた悪魔―― だが、生前の生命力をそのまま保持している。」
レムロスは深く頷いた。
「よく見ておけ、レムロス。
本来、我ら悪魔は“魔法陣”を介してしか 人間界へ現れられぬ。」
使徒たちが息を飲む。
「人間界に長く留まり活動するには、
契約者となる人間から生命のオーラ――
魂から滲むエナジーを供給されねばならん。
位が高い悪魔ほど、必要とするエナジー量も増す。」
レムロスは深く頷いた。
「だから……ディアブロ様ほどの高位悪魔となれば、
通常の人間の魂では到底足りぬ……と。」
「そうだ。」
そしてディアブロはゼルファスへ目を向ける。
「だが、こやつは違う。
ゼルファスは人間の生命のオーラを失わぬまま悪魔となった。
そのため、契約者なしでも長期の活動が可能なのだ。」
レムロスは震えた。
「……ありえぬ矛盾……
悪魔と人間の基盤となるエナジーを同時に保持するなど……
まさに“奇跡”ではなく“災厄”……!」
ディアブロは手でラモンの死体を示す。
「レムロス、この死体の人間――ラモンになりすませ。」
レムロスは一瞬驚き、死体をまじまじと見た。
「……私に、ですか?」
「そうだ。計画は後で伝える。しばし“ラモン”として人間界で動け。」
レムロスは頷いたが、困ったように付け加える。
「ただ……人間界で長く活動するには、 “人間の生命オーラ”が必要……。
魔界の悪魔である我らには、それが欠けております。」
ディアブロは口元を歪めた。
「心配するな。 ここにちょうど良い魂がある。」
影の中から、ラモンの魂が現れた。
醜く歪み、恐怖の残滓が漂う魂。
レムロスが思わず口元を押さえる。
「……これを、私に?」
「喰らえ。
その魂を取り込み、ラモンとしての生命力を得よ。
病気を理由にしばらく床に伏せ、お前がラモンの座に収まれ。」
レムロスは静かに頭を垂れた。
「御意。
そして私は……ゼルファス様の影として仕えるのでしょうか。」
ディアブロの瞳が光った。
「いずれはそうなる。ゼルファスの配下として働け。」
レムロスは嬉しげに深く平伏した。
「ははっ……!
こ のレムロス、生涯の誇りといたします……!」
そのやり取りを見ていたロドリゴは、
恐怖と安堵を入り混じらせた眼で悪魔たちを見ていた。
ディアブロは今度はゼルファスへ視線を向けた。
「ゼルファスよ。お前のオーラは強すぎる。
このままでは、他の高位悪魔や天使どもに気づかれ、
厄介なことになる。」
ゼルファスは黙って聞いている。
「オーラの制御を学ばねばならぬ。人間界では、その力を隠せ。」
「……どうすればよいのですか?」
「我が国――魔界にある我が屋敷に来い。そこで教えてやる。」
ゼルファスは胸に手を当て、静かに答えた。
「承知しました、ディアブロ様。」
ディアブロは、ロドリゴへと振り向いた。
「ロドリゴ。役に立て。それが貴様の“生き残る唯一の道”だ。」
ロドリゴは全身を震わせ、地面に額をつけた。
「は、ははっ……!全てお任せくださいませ……!
闇の使徒をまとめ上げ、
王家と世界を……必ず混乱へ導きます……!」
ディアブロは満足げに頷く。
そしてゼルファスの肩へ手を置き、
魔法陣の中心へ導いた。
「行くぞ、ゼルファス。」
ゼルファスが一歩踏み出すと、
魔法陣が黒い光で満ちていく。
レムロスはその場に留まり、ラモンの魂を手に取った。
「……では、いただきましょう。」
魂を口元へ寄せると、レムロスの身体が震え、
黒い光が体内に流れ込む。
次に、死体に伸ばした舌で血を啜る。
すると――
肉体が変化を始めた。
骨格が音を立てて変形し、
膚の色、顔の形、髪の色までもが変わっていく。
やがて――
そこに立っていたのは、
生前のラモンと見分けのつかない“完璧な偽物” だった。
レムロスは自分の指を開閉し、
声を試すように呟いた。
「……ふむ、舌の動きも同じ。これでよいでしょう。」
ロドリゴが青ざめて言った。
「で、では……あの死体は……?」
レムロスは微笑んだ。
「処理を頼みます、使徒ロドリゴ。
これは新たなラモンの始まりです。」
そして、レムロスは堂々と歩き出し、
ラモンの屋敷へ向かっていった。
魔法陣の中心では、
ディアブロとゼルファスの姿が完全に闇へ沈み――
次の瞬間、二人は魔界へと消えた。
その瞬間から、
人間界での“闇の支配計画”が静かに動き始めた。
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