第15話:恐怖と欲望の契り

祭壇を照らしていた黒炎が静まり、

悪魔ゼルファス――かつてノアだった存在は

なおも闇を纏いながら静かに立っていた。


広間は恐怖と沈黙で凍りついている。


死体となったラモンの血が魔法陣に静かに流れ込み、

黒曜石の床に不吉な模様を描いていた。


その傍らで、武器商人ロドリゴは蒼白になっていた。

恐怖で膝が震え、声が上手く出ない。


(……こ、殺される。ラモンの次は……私だ……!)


ディアブロはゆっくりと広間を見渡し

不気味な低い声で言った。


「さて……邪魔者は消えた。」


その視線がロドリゴをかすめた瞬間、

ロドリゴの背筋が凍りついた。


彼は必死に頭を床に擦りつけ、声を張り上げた。


「ま、待ってくださいディアブロ様ッ!

 私め……わ、私めは……!」


ディアブロの瞳が細くなる。


「……言ってみろ。人間。」


ロドリゴは喉を震わせ、言葉を絞り出した。


「私たち《闇の使徒》は……!

 ディアブロ様、そしてゼルファス様に忠誠を誓います!!

 どんな命令でも、どんな犠牲でも……!」


他の使徒たちも一斉に地面に額をつけた。


「我ら、闇に仕える者……!」

「ディアブロ様の御意思に従います!」

「ゼルファス様の前に、忠誠を誓います……!」


ディアブロは満足そうに笑った。


「よかろう。

 悪魔は天使と違い、無償で働かせたりはせん。

 役立つ者には報酬を、愚か者には終焉を与える。」


ロドリゴの心臓が跳ねる。


ディアブロが続けた。


「――で、貴様はどう役立つつもりだ?」


ロドリゴは震える手で、ラモンの死体を指さした。


「こ、この死体です……! この男ラモンは王家に食い込み、

 宝石の力で官僚たちを買収し、 いずれ王家を裏から操ろうとしていた……!」


ディアブロは無言で聞いている。


ロドリゴは続けた。


「この死は……利用できます! ラモンの名と財を使えば、 王家を混乱させ、

 簒奪の下地を作ることが可能です!!」


他の使徒も一斉に賛同した。


「王家は今、腐敗の極みにあります……!」

「弱い権力は崩しやすい……!」

「ラモンの失踪、あるいは“操られた傀儡”に仕立てることも……!」


ディアブロはゆっくり頷いた。


「なるほど……人間の腐敗は、 確かに利用価値がある。」


ロドリゴは恐怖と期待の間で震えながら言った。


「ですから……どうか……我らにも、生きる価値を……!」


ディアブロは高らかに笑い声を響かせた。


「よかろう、人間ども。 その腐った王家を混乱に導け。

 役に立つのなら、 お前たちにも“良い思い”をさせてやろう。」


その言葉に、広間に歓喜と恐怖が混じった声が響く。


「は、はいッ!ディアブロ様!」

「我ら全身全霊で……闇の使徒の力を拡大し……」

「必ずお役に立ってみせます……!」

「王家など……すぐにでも崩せます……!」


ゼルファスは沈黙したまま、

その光景を冷たい眼で見ていた。


新たに生まれた悪魔の瞳には、

もはや人間に対する慈悲の欠片もない。


ディアブロはゼルファスを見て言った。


「ゼルファスよ……人間たちを利用しろ。憎悪は力となり、力は世界を動かす。」


ゼルファスは静かにうなずいた。


「ディアブロ様の御心のままに。」


その瞬間―― 闇の使徒たちは悟った。


この場に立つ二体の悪魔こそ、

やがて世界を揺るがす“闇の王とその影”となるのだと。


そして、

エルトリア王国の混迷はここから始まり、

世界は静かに滅びへの一歩を踏み出した。



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