第14話:悪魔誕生の儀(前編)
使徒たちがざわめき、
魔法陣へとノアを引きずっていく。
ノアは抵抗せず、ただ静かに歩いて祭壇の中央に立った。
その沈黙は、不気味なほど澄んでいた。
ロドリゴが高らかに叫ぶ。
「儀式を始めよ! 闇よ、扉を開き、古き力を呼び覚ませ!」
使徒たちが呪文を詠唱し始める。
「――ル=ファル・ドルナ=ゲイズ
――アス=デフ・ルナ=マル……」
詠唱が重なり、空気が震えた。
魔法陣が眩い紫に輝き、床が脈打つように波動を放つ。
ドォン――ッ!
衝撃が広間全体を走る。
天井の紋章が光り、星図が回転する。
ロドリゴは陶酔したように両手を広げた。
「そうだ……来い……!
我らに力を示せ、偉大なる悪魔よ……!」
だが次の瞬間――
魔法陣が“黒”に染まった。
使徒たちの声が止まる。
「……え?」
「色が……違う……?」
「こんな反応、儀式書にない……!」
ロドリゴの眉がひくりと動く。
「な、何だ……これは……?」
黒染めの魔法陣は光を吸い込み、
まるで底なしの奈落が広がるようだった。
そこから――“音”が漏れてきた。
低い唸りではない。
風の音でもない。
まるで世界そのものの悲鳴。
ノアの足元に黒い裂け目が開き、
禍々しい闇が噴き上がる。
使徒たちが悲鳴を上げた。
「やめろ!儀式の規模が違いすぎる!」
「ロドリゴ!止めろ!これは制御できん!」
「撤退だ!逃げ――」
その瞬間――
闇の底から“何か”が現れた。
巨大な影。
角のように伸びる二本の黒い柱。
燃える深紅の眼光。
裂けた空間から吹き上がる黒炎の翼。
広間全体が震え、床の魔法陣が砕ける。
巨大な悪魔の“顔”が、裂け目の奥に現れた。
その声は、世界を震わせるほど深かった。
「――ほう。よくぞ我を呼び出したな、人間どもよ。」
ロドリゴが震えながら声を絞る。
「お、おおき……すぎる……
こ、こんな存在を……呼んだ覚えは……」
悪魔は笑った。
「我が名は――魔界の王ディアブロ。
この世界のあらゆる絶望を喰らいし者。」
使徒たちが叫ぶ。
「ディアブロ……!? 大災厄の悪魔……!」
「逃げろ!こんな存在、儀式の範囲外だ!」
「我らでは……無理だ……!!」
ロドリゴまでも蒼白になった。
「な……なぜだ……
これはただの加護の儀のはず……!」
ディアブロが嗤う。
「凡俗の人間よ。
お前たちの陳腐な儀式で呼べる相手ではないと思ったか?」
闇の翼が広がり、広間が闇に飲まれる。
「答えは簡単だ。」
ディアブロの瞳が――ノアに向いた。
「――そこに立つ男の闇が、我を呼んだのだ。」
ノアは静かに立ち、目を閉じていた。
ラモンが叫ぶ。
「な、なんだと!? 贄が……悪魔を呼んだだと……?」
ディアブロの声が重く響く。
「儀式はきっかけに過ぎん。本当に扉を開いたのは――
その人間の心に宿る、深淵そのものだ。」
使徒たちは恐怖で腰を抜かした。
ロドリゴは声にならない悲鳴を上げる。
「あ、ああ……あああ……
し、知らなかった……こいつが……!」
ディアブロが手をかざす。
次の瞬間、
広間を包むように結界が張られた。
透明な壁が光り、逃げ道が完全に消える。
使徒たちが叫び、壁を叩く。
ディアブロは冷たく言った。
「どこへ行く。儀式はまだ終わっていない。」
ロドリゴが震える声で囁いた。
「ま……まずい……
我々は……“魔界の王”を呼んでしまった……!」
ラモンは状況を理解できず、悪魔に怒鳴る。
「おい!悪魔! 私に従え! 私は王家に近い人間だぞ!」
広間が静まり返った。
次の瞬間――ディアブロが低く笑った。
「……人間とは、本当に愚かだな。」
その言葉と同時に、広間の空気が変わった。
闇が蠢き、何かが“目覚める気配”が走る。
次の瞬間、
儀式の本当の意味が、誰にも逃れられぬ形で姿を現す――。
(後編へつづく)
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