第13話:黒炎、完全覚醒
王都南区。
表向きは武器商ロドリゴの店――
だが、その地下には誰も知らぬ闇が広がっていた。
ラモンに連れられ、ノアは重い扉をくぐる。
階段を降りるたび、空気が冷え、湿り気を帯び、
地下へと吸い込まれるように暗闇が深まっていく。
最後の段を踏むと、そこには――
異様な空間が広がっていた。
地下祭壇。
石壁には黒い布が垂れ、無数の蝋燭が赤い炎を揺らし、
床には禍々しい魔法陣が刻まれている。
円の中心には黒い水晶柱が立ち、そこから淡い闇の靄が漏れていた。
魔法陣を囲むように、黒いローブをまとった数名の男たちが佇んでいる。
闇の使徒たちだ。
その中央。
祭壇の前に立つロドリゴが、ゆっくりと振り返った。
「ほう……これが“不死の奴隷”か。」
ロドリゴの視線は興味と邪悪な愉悦が混ざり、
獲物を見る魔物のように細められる。
「素晴らしい……
肉体が死を拒む――これほどの贄、そうは手に入らん。」
ノアは目を逸らさない。
だがその瞳には静かな怒りが揺れていた。
ラモンは胸を張り、ロドリゴに言い放つ。
「約束は守ってもらうぞ。
私が王家を裏から支配すれば、お前にも利益を分けてやる。」
ロドリゴは薄く笑い、ゆっくり頷いた。
「ええ、もちろん。あなたの“成功”は我々 闇の使徒 の利益にもなる。」
だがその内心では冷笑が渦巻いていた。
(――成功するのは私だ。宝石屋風情が王家を支配?笑わせる。
お前が力を得れば得るほど……奪い甲斐があるものだ。)
野心が野心を喰らう闇の空気。
その全ての中心に、ノアが立たされていた。
ロドリゴは儀式用の黒い指輪をはめ、ノアに近づく。
「怯える必要はない。贄は苦痛の果てに価値が生まれる。
お前は……最高の“供物”だ。」
ノアの瞳が揺らめく。
その奥底で黒炎が大きく、深く、形を変えて燃え始めていた。
(またか……また俺は、利用されるのか。)
頭の中に、今までのすべてが蘇る。
村を焼かれたあの夜。
両親の悲鳴。
兄の冷たい手。
グラドスの残虐な笑み。
レジオたちに連れ去られた日。
ドミナスの店の檻。
光に選ばれなかった屈辱。
奴隷商のオークション。
ヴァルガロスの屋敷での地獄。
戦場で盾として扱われた孤独。
コリンの温もりと、その死――。
それらが全て、心の奥で一つにつながった。
(人間は……俺を苦しめるためにしか存在しないのか。)
ノアの胸の奥が灼けつく。
黒炎が渦を巻き、今までとは明らかに違う形へと変質していく。
ラモンは楽しげに言った。
「お前は不死だ。
死ねない体は、悪魔にとって最高の贄だ。
最後に役立てるのなら、幸せだろう?」
ノアはゆっくりと顔を上げた。
その瞳は赤く染まり、黒い火がゆらゆらと宿っている。
「……幸せ?」
声は震えていない。
静かだが底なしの暗さを帯びていた。
「俺から……全部奪っておいて……まだ奪うのか。」
ロドリゴが愉悦を含んだ表情で近づく。
「怒りを抱くのは良い。憎悪は儀式を強める力になる。」
ノアはロドリゴを見据えた。
「安心しろ。 俺は今……初めて人間を理解した。」
ラモンが眉をひそめる。
「何を言っている?」
ノアの声は冷たく、底知れなかった。
「――俺はもう、人間を憎む。」
ラモンも、ロドリゴも、一瞬返す言葉を失うほどに、
その言葉は重く、確かな絶望を帯びていた。
ノアの中で、黒炎が完全な形になる。
それは“個人の怒り”ではない。
人間そのものへの憎悪だった。
ロドリゴは満足げに頷く。
「いい……実にいい。 儀式は成功する。」
しかし彼は知らない。
その憎悪こそ――
人も、教団も、王国も呑み込む“災厄の始まり”だということを。
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