第9話:王家の宴とラモンの暗躍
宮殿の大広間は、夜の光に包まれていた。
天井から吊るされた無数の燭台が煌めき、
壁には金箔を施した装飾がずらりと並び、
床には絹の絨毯が隙間なく敷き詰められている。
王族たちは豪奢な衣を纏い、杯を掲げ、笑い声を響かせていた。
民が飢えと寒さに苦しむ中で、ここだけは別世界のように満ち足りていた。
その場に姿を現したのは、王家御用達の宝石商、ラモン・ヴァルディネスである。
彼は煌びやかな衣をまとい、手には新たに仕入れた宝石を携えていた。
「陛下、この宝石は遠方の鉱山から運ばせたもの。
王冠にふさわしい輝きでございます。」
ラモンは深々と頭を下げ、宝石を献上した。
王族たちはその輝きに目を奪われ、歓声を上げる。
「見事だ、ラモン。お前の宝石は王家の威光をさらに高める。」
「王国の繁栄は、そなたの商才に支えられている。」
ラモンは笑みを浮かべ、恭しく応じた。
「恐れ入ります。ですが、宝石の輝きはただの飾りではございません。
王家の力を“裏から”支えるものでもあるのです。」
王族の一人が眉をひそめた。
「裏から支える、だと?」
ラモンはすぐに表情を和らげ、声を低めた。
「もちろん、忠誠ゆえの言葉でございます。
王家の威光が永遠に輝くよう、私は影となってお支えするつもりでございます。」
その場は再び笑いに包まれたが、
ラモンの目だけは冷たい光を宿していた。
――宝石で王家を縛り、依存させ、いずれ支配する。
それが彼の密かな野望だった。
宴の隅では官僚たちが酒杯を手に囁き合っていた。
「ラモンの宝石は確かに見事だが……値は三倍にも膨れ上がっている。」
「それでも王家は買う。威光を保つためにな。」
「我らも恩恵にあずかっている。ラモンから分け前を受け取れば、
帳簿の数字などどうとでもなる。」
別の官僚が笑いながら付け加えた。
「税を重くして民から搾り取ればよい。
王家の宴は続くし、我らの懐も潤う。民の苦しみなど知ったことか。」
ラモンはその会話を耳にしながら杯を傾けた。
官僚の腐敗こそ、自身の野望にとって最も都合がよかった。
彼らが堕落すればするほど、宝石への依存は深まり、
王国全体が彼の掌へ落ちる。
王族たちは次々と宝石を手に取り、互いに見せ合っていた。
「この輝きは神々の祝福だ。」
「いや、ラモンの商才の祝福だろう。」
「民が飢えていようと、王家の威光は絶やしてはならぬ。」
一人の王子が、酔った声で笑いながら言った。
「民の苦しみなど宴の余興にすぎぬ。
彼らが飢えれば飢えるほど、我らの宝石は輝きを増す。」
その言葉にラモンは深く頷き、恭しく微笑んだ。
「陛下のお言葉の通りでございます。
民の声は風に過ぎません。王家の威光こそ永遠なのです。」
笑い声が広間を満たす。
だがその笑いは、民の苦しみを覆い隠す薄っぺらな仮面にすぎなかった。
宴も終盤に差し掛かるころ、
ラモンは王の側近へ静かに近寄った。
「陛下の威光を永遠に保つため、私はさらに宝石を献上いたします。
ですが、そのためには――鉱山の管理を一部お任せいただければと。」
側近は目を細める。
「鉱山の管理だと? あれは王家の直轄である。」
ラモンは微笑みを深め、声を低めた。
「直轄であればこそ、私の力が必要なのです。
収益を増やし、王家の威光をさらに高めるために。」
沈黙ののち、側近は頷いた。
「……よかろう。しかし――分け前は忘れるな。」
ラモンは恭しく頭を下げた。
「もちろんでございます。すべては王家のご繁栄のために。」
その瞬間、ラモンの目の奥に宿った冷たい光は、
確かな野心と支配欲を示していた。
終盤、王族たちは酔いに任せて語り合った。
「民の反乱など恐れるに足らぬ。飢えれば力を失う。」
「ラモンの宝石があれば、我らの威光は永遠だ。」
官僚たちも杯を掲げて笑う。
「王家の威光のために!」
「いや、我らの懐のために!」
その笑い声は宮殿に響き、夜の闇に溶けていった。
だが裏では、王国全体が腐敗に蝕まれていた。
宝石の輝きは欲望の仮面。
王家は堕落し、官僚は腐敗し、
強欲の商人は影から支配を企む。
民の苦しみは、宴の喧噪にかき消されていく。
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