第4話:天使を待つ者たち

光導司ルイジ・カルダーノは、奴隷商ソーマから王都アレシアの

教会支部へと戻っていた。


夕刻の優しい光が石畳を照らし、 白亜の尖塔が長い影を伸ばしている。

その隣には学院と寮――聖光学院があり、


啓光の儀でが生活しながら学んでいた。


「ルイジ光導司さま、おかえりなさい!」


帰寮途中の少年少女たちが元気よく頭を下げる。


ルイジは穏やかに微笑んだ。


「今日も学びは順調かい? セラフィア様は常に汝らを見守っておられる。

 日々の努めを怠らぬように。」


「はい、光導司さま!」


子供たちの姿を見送りながら、ルイジはふと胸にかすかな陰りを宿した。


(……もし、あの少年に“才”があれば。学院へ迎える道もあったのだが)


階段を上り、ルイジは典司室の扉を軽く叩いた。


「入りなさい。」


中から聞こえた穏やかな声に従い入室すると、

典司マウロ・ジェラルディが書類を閉じて微笑んだ。


典司とは、大教会に配属され、複数の光導司を統括する上位聖職者。


「おかえり、ルイジ光導司。

 例の──どうだったのかね?」


「はい。噂は事実でした。」


「……そうか。」


マウロの眼差しがわずかに鋭さを帯びる。


ルイジは続けた。


「しかし、神光石による反応は…… 一度も光を示しませんでした。」


静かな口調だが、がないことを意味していた。


マウロは軽く息を吐いた。


「そうであれば──教会として保護する理由はないな。」


冷静な判断だった。


「出所については何か聞けたかね?」


「いえ。ドミナスは企業秘密とだけ……。」


「ふむ。あの男らしい。」


会話は淡々と進み、マウロはやがて柔らかい微笑を浮かべた。


「よろしい。報告ご苦労だった、ルイジ光導司。

 今日はもう休みなさい。」


「失礼いたします。」


扉が静かに閉まり、室内に一人残されたマウロの表情から

ゆっくりと笑みが消えていった。


薄暗い部屋。

蝋燭の炎が揺れ、壁に伸びた影が奇妙に揺らめく。


マウロは書類の端を指でなぞりながら、低く呟いた。


「……、天使では──なかったようですね。」


その言葉は、誰に向けたものでもない。

期待と失望、そして奇妙な執着がにじむ声音。


同胞。天使。


それが何を意味するのか、 だが、マウロの瞳の奥に浮かぶ光は、

それがただの比喩ではないことを示していた。


やがて、彼は鈴を鳴らし、書記官を呼ぶ。


「……念のため、本国へ報告を送っておきましょう。

 サン・セラフィア神政国には、知らねばならぬことがある。」


その声は、先ほどの柔らかさとは違い、

静かで、冷たく、底知れぬ響きを帯びていた。


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