12月20日『にんげんの冬』

 ひとはみな、恋を失うときに心臓に重りをさげる。それは別れた恋人の体重と同じ重さで、寂しい夜には、重りに引きずられるようにして雪のつもる道を歩く。自然と顔は下を向き、彼らは恋のかけらを探す。

 けれども地上には恋のかけらはもうないのです。最後の一粒は二ヶ月くらい前にとある女の子が飲み込んでしまった(その子は昨日飛び降りた)。それを探すためには太陽系を飛び出して何十光年も行かなければならない。そのために生まれた探査機たちが第三宇宙速度を突破して太陽の引力を振り切っていくさまを見て、人類はみな、さみしいな、とおもうのです。そして探査機が戻ってくるまでの何十万年のあいだを氷河期と名づけて、肩を寄せ合いながら、胸の重りが外れる日を待っているのです。

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