12月21日『そういう夜に』
二ヶ月も経ってしまえば君が本当に存在するのかどうかすら疑いたくなってくる、そんな夜だ。僕と君との恋にほかの登場人物はいなかったのだから、君が僕に見せていた姿がまったくの、まったくの嘘でもいいわけで、ならばスマホ越しに最近の流行りについてとめどなく喋るその声も、バスの隣の席で建てていた寝息も、死にたいと零す雪の結晶のような震え声も、ぜんぶ、嘘。
だったら、まだよかったのに、君という人間は困ったもので僕の心に四、五十キロの重りを載せたままなのだ。それなのにその重りが現実の目の前にないということが、じゃあね、なんていう無機質な声とともに消えてしまったということが、僕にはどうしようもなく困ったことに感じられて、不思議なことにひとつも苦しくないのだ。苦しくないからこの重りを追い払うこともできない、そういう夜に、僕は恋の欠片も探すのだけれど、暗くて見つけることができなかった。街灯のない道の真ん中で、僕は照らされずに、ひっそりと宇宙線の雨に打たれる。そしてじっと固まって、遠い銀河の向こうからあたらしい恋が飛来するのを待っている。
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