12月7日『良い夢を』
ある人は詩を、ある人は日記を書く晩だった。めいめいに万年筆を手に取って、暖かい部屋の中で心を瞬かせた。外国に住む恋人に手紙を書く人もいた。海辺に住む彼は、窓から夜の水平線を眺めていた。ずっと向こうの恋人が住む国は暑い真昼であることを思い出していた。
しんと冷える夜の草原で野宿する人がいた。今にも雪が降り出しそうな曇り空で、彼は飼い犬と寄り添って夢を見ていた。彼の眼は瞼もテントも分厚い雲も貫いて星々を望んでいたのだった。
冷たい海深く、大きな鯨がその一生を終えようとしていた。百年も生きた鯨だった。周りの魚は皆彼の周りを泳いだ。魚の小さな脳では死という概念など理解はできなかったがそれでも、彼らは感じていた。鯨が最期に見たのは、かすかに煌めく数多の鱗が描く美しい絵画だった。ほどなくして眼を閉じて、沈んでいった。
空には天使がいた。その白い翼を絹のようにはためかせながらこのまるい惑星を見下ろしていた。透き通るような両手をひろげて天使は、すべてのいのちを愛した。羽根が一枚その翼から抜け落ち、風に飛ばされていった。
雲の向こうで、月の幽霊たちはいま一心に太陽を目指した。音のない巡礼だった。
この晩だけはすべての争いが止んでいた。
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