12月5日『ぬいぐるみがない』

 このリップが毒だったらよかった。それほどまでに言葉が出てこないんだ。殺風景な部屋、窓の外に揺れるズボンをみてなぜか途方もなく悔しくなって、なんであれがスカートじゃないんだろうなんてわかりきったことを思う。メイクをしてみたいって言って母に笑われた夜もああやって青色のズボンはベランダからせまい庭を見下ろしていた、まるで飛び降りたがっているみたいに。

 髪を伸ばし出した理由も、梅雨に髪が跳ねる憂鬱も、友達に連れられて服屋さんに入ったときの手の震えも、首筋のやけども。ぜんぶ忘れない、忘れないけれど僕はそのすべてを捨ててしまいたい。家を出たらきっと、僕はかわいい部屋に住むんだ。

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