12月2日『再会』
僕はひとりになった。住み慣れた小さなリビングルームでじっと、白い壁を見つめる。倒れた瓶から塩がこぼれるように僕は君のからだを全部取り逃がしてしまった。
君のからだは星屑だった。元素は星の爆発によってつくられるんだよと、そこのソファで教えてくれたのは何年前だろうか。君の血肉は色んな星々からやってきた。窓越しに夜空を見上げて、ふたりで星を融かしあった。シリウスのようにエンケラドスのように白い首筋だった。なにもかもの宇宙が終わったあと、君はぽつりと、私の薬指と君の薬指はね、
同じ星から来たんだよ
と言った。
君の肉は骨は皮膚はやがてべつのひとの肉に骨に皮膚になる。広葉樹の一部に、蟻の一部になる。銃弾に、一冊の本になる。僕だってそうだ。そうやって、初恋は、繰り返す。
何千億年か後のとある星、を、想像する。宇宙の片隅のちいさな白色矮星だ。そこに僕らの薬指がある。生きていなくたっていいよ、僕だとわからなくたっていいよ。ただ同じ星のなかにあればいいんだ。何千億年も僕は待てるだろうか。
この家もひとつの星だったらよかった。僕はそう呟いてキッチンの蛇口をひねる。幾億個の水分子が目の前を通り過ぎていく。その中に君のからだがないかと目を凝らす。
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