11月30日『出立』

 もう空っぽになった家、空っぽひっくり返しても家具ひとつ家電ひとつ出ないからっぽ。ドアを開けて僕もいなくなる開けて開けて夜が明けて。朝だ新しい朝だ。浅はか。

 肩には薄く雪が積もる、積もる積もる積もり積もったこの一年間の暮らし暮らしが凍りついたまま宙に浮かぶ。私がこの家に初めて入った日も雪が降っていた、そこからまた暮らし暮らし日暮らしの泣く夏を通って日々苦しい、愛くるしい暮らしが苦しくなっていくらしいそれも私たちらしいねと最後に笑う君。

 笑う微笑う咲う、笑う悪いのは僕か君か割れたハート、いいやきっとどちらでもない、どちらでもないどちらでもないちらちらちらちら雪が舞う。雪雪雪、君はひと足先に遠くに往き、僕たちは生き息をする。各駅停車渋谷行き発車いたします、毎朝君と電車に乗っていた頃のことを思い出す。頃頃ころころ、君が部屋のカーペットにコロコロをかける、ころころとよく咲う人だった咲う笑う微笑う。

 傘立てに一本だけ残されたビニール傘、傘傘かさかさ、肌がかさかさ、君がくれたハンドクリーム逆さに立てる。ここから坂を登ってスーパーで魚買ったあの日、荷物が重かった思い想い思い出す一年間の暮らし暮らし。

 もう君のことは好きじゃないんだ本当に。好き好きじゃないんだ嫌いでもないけれど。嫌い嫌いキラキラ星がまたたいてベランダから夜空を見る。、ああ、また思い思い思い出してしまった重い重い背中にのしかかる君の体重重い重い怒られた。怒られたられたられられらりるれろラリルレロれろ思い出す君とのキスを舌の感触を。舌舌舌液体液体液体。舌した下もした。君を慕った慕っていた。出会った頃から慕っていたその真っ直ぐな生き方よ! 僕は君がたくさん食べるのを見るのが好きだった、食べる食べるべろが蛸みたいに絡まって、ああそのことばかり考えてしまうんだ君がいなくなってから。本当にもう好きじゃないからね、好き嫌い好き隙あらば擽ってきた君。君黄身卵の黄身、朝ごはんは卵かけご飯、卵まご孫ができるまで一緒にいようなんて口には出さずとも伝わっていた、蔦が生えるまで、墓に蔦が生えるまで、墓、一緒の墓に入る、儚い夢、馬鹿な夢。、だった。

 傘を差して吐く息白く、さして大したことない恋だった、吸って吐いて吸って吐いて肺に染みる冷気冷気冷気が白く肺に染みる。はいいいえの二元論ですべてを片付けて僕らは終わった。はいいいえはいいいえ、いいえ永遠なんてない、ないけれどこの家はいい家だった引っ越してきたばかりの頃君は写真を撮ろうと言っていえーいと笑った咲った、遺影にもなるだろうかその写真。君の笑った顔が頭を離れない。離れない慣れない君のいない暮らし。暮らし暮らし暮らすらすラストシーンは雪景色だ。雪景色景色消して消して君の思い出をすべて消して僕は暮らしていく。

 ありがとう、元気でね。

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