11月27日『ネイルから何から』

 指が太いのを誤魔化すためにネイルをしようと思った。

 ネイルサロンはどこも高くて、単色でいいから自分でやってみようと決心した。小学生のころ指をポキポキ鳴らし続けてしまった代償。骨ばって可愛くない自分の手をマシにするためにググり散らかして、たどり着いたのがネイルだった。

 母の道具を借りてベースコートを塗る。そのまま淡いピンク色を筆で入れていく。酷い出来だった。シワだらけでグジュグジュになっているし、色ムラも激しい。爪の外にはみ出してすらいた。

 私は生まれつき不器用なんだ。図工や美術の授業で上手いものをつくれた試しがないし、お箸の使い方すらこの年でよく注意される。ヘアセットだって、メイクだってうまくいかない。そしてネイルもだ。

 自分を真っ二つに引き裂いてやりたいような気持ちになりながら除光液を乱暴にコットンに出す。そのまま強く、削るようにネイルをゴシゴシと落とす。除光液のシンナー臭が私の鼻を無造作に刺激する。私は少し前に百均でアイプチを買ったときのことを思い出していた。

 友達に教えてもらって買ったアイプチは私を綺麗な二重にしてくれるはずだった。なのに何回やってもまぶたは薄く不細工なままで、いつの間にか私の両目からは涙が溢れていた。何度もテープを貼っては剥がした痛みからだ、と自分に言い聞かせた。

 そして今も似たようなものだ。そうだ、犬はネイルの臭いを嫌がると聞いたことがある。近所の家の犬はずば抜けて鼻がきくからきっとストレスだろう。ネイルはしない方がいいな。

 そう言い聞かせて、可愛くなるのを諦めて、その先に何があるんだろうか。いつになったら私はあの人みたいに輝けるんだろう。

 あの人のネイルの色が思い出せない。きっとその程度なんだ、あの人への思いも、お洒落への執着も。

 いつかあの人と服を買いに行きたい。それ以上は何も求めないから。ただ間近でなんでもないようなことを喋りたいんだ。

 ああ、だめだ、そこに着ていけるような服がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る