11月25日『ポラリス』
夢の中で、私たちは舟に乗っていた。
小さな舟だ……ひとたび大波を被ればすぐにひっくり返ってしまうような。そして今、舟は漂流していた。私とあなたで代わりばんこに、あてもなくオールを漕いだ。
夜になれば星が出た。かろうじて北極星の探し方は知っていたから、なんとなく北へ向かっていた。毎晩あなたとオリジナルの星座をつくって遊んだ。
ある夜、うつらうつらとする私の前で夜通しあなたが舟を漕いでくれていた。君も僕もふねを漕いでいるね、とあなたは笑った。私も重い瞼をこじ開けて薄く笑った。
星や月の光が海原じゅうに落ちてきらきらしていた。この舟だけが世界にぽっかり浮かんだ闇のようだった。
島影ひとつ見えなかった。緯度は日に日に上がっているはずなのに寒くはならなくて、逆に体が火照るような不思議な感覚だった。
オールを両手に持つあなたの美しい輪郭の先に北極星を探す。その二等星の光が目に刺さって、あなたごと見えなくなってしまいそうだ。置いていかないで、と強く思った。舟が前後に離れてあなただけが先に行ってしまいそうだった。
ああ、綺麗だなあ。そう言うとあなたが穏やかな声で返してくる。どうしたの。
いいや、星月夜がね。そう言い訳のように呟いて、私の意識は遠のいた。
目覚め。舟の上ではない、ベッドの上での目覚めだ。
なんとなく腕が痺れていた。はっと横を見ても当然、あなたはいない。ふらりと起き上がって洗面所へ向かう。
今日は映画を観に行くのだ。どんな服を着ようか、どんなメイクをしようか。その前に朝食を済ませないとな。
北極星の惑星はもうおしまいだ。
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