11月18日『シアター』

ふと気がついて、君とソファに腰掛けている

のではなく

ふと気がついて、大きな公園を話しながらゆったりと歩いている

のでもなく

ふと気がついて、忙しない日曜の午後に空いている喫茶店をふたりで探し回っている

のでもなく

ふと気がついて、春の海を眺めている

のでもなく

私は

ひとりで退屈な映画を観ていた

無人の家を巡る百二十分間の映像、観客は私だけ……


劇場を出たら別の人を愛せるだろうか

それともまだ手元にあるものを

ひたすら見つめるだろうか

この小さなシアターのほかに世界には何もないのだろうか


 

あなたに捧げたはずの左薬指と左耳朶の感覚がない

画面の中ではピアノがひとりでに鳴っていた、ベートーヴェンだったか……

セピアに逃げたあなたのこと

青みがかった私の半身

 

セピアに逃げたあなたのこと

青みがかった私の半身……

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