第18話 楽園の対決と記憶の星
ネコ・エリシオンの草原は、静かで、でも張り詰めた空気に包まれていた。
ふわふわの地面に、二隻の船が静かに着陸している。
ハッチが開き、太郎、リナ、ピコ、ミケロン、トリオンの五人が降り立つ。
目の前には、二つの大きな群れ。
一方は、黒い光をまとった執行者たち。
数十匹の猫が、重力フィールドを展開して威圧的に並ぶ。
その奥に、古き猫たちの巨大な幻影が、空に浮かんでいる。
もう一方は、若い猫たち。
数百匹はいるだろうか。
毛色もサイズもさまざまな猫たちが、不安げに、でも決意を込めて集まっている。
革新派だ。
ミケロンが一歩前に出た。
『みんな……久しぶり』
若い猫たちから、小さなざわめきが上がる。
『ミケロンだ、本物だ!』
『トリオンも一緒に……』
『メッセージの、あの人たち!』
執行者たちのリーダー格――クロとシロが前に進み出た。
クロが冷たく言った。
『ミケロン。ここまで来るとは、愚かな選択だ。
人間どもを連れて、楽園を汚す気か?』
シロが続けた。
『帰還を拒否した罪は重い。記憶を強制抽出する。それが、古き猫たちの最終判断だ』
空に浮かぶ古き猫たちの幻影が、ゆっくりと声を重ねた。
『外宇宙の混沌は、毒だ。完璧な観測を乱す。
我らは、永遠の調和を守る』
太郎が前に出た。
「完璧だって?お前らの楽園は、退屈で死にかけていたんだろ?ミケロンが言ってたよ。若い猫たちが、眠ってるだけの日々を送ってたって」
リナが銃を構えずに、でも毅然と言った。
「私たち人間だって、不完全だらけだ。失敗して、傷ついて、成長する。それが生きるってことだよ」
ピコが端末を操作しながら付け加えた。
「楽園の革新派は、もう多数派に近いらしいよ。ミケロンの発信のおかげで、みんな目覚めた」
若い猫たちの群れから、声が上がった。
『私たちは、もう退屈したくない!』
『外宇宙を見てみたい!』
『ミケロンを、罰しないで!』
執行者たちが、重力フィールドを強める。
草原が揺れ、ミルクの川が波立つ。
クロが宣言した。
『抵抗する者は、すべて排除する。楽園の秩序のために』
ミケロンが、トリオンと並んで立ち、
大声でテレパシーを放った。
『待って!戦う必要なんてないよ!みんなの気持ちを、ちゃんと聞いて!』
彼女は空を見上げ、記憶の星の一つに意識を集中した。
『これが、私の旅の記憶。みんなに見せてあげる』
ミケロンが前足を振り上げる。
空の記憶の星が、一つ大きく輝き始めた。
――草原にいるすべての猫たちに、ミケロンの冒険が、映像と感情ごと流れ込んだ。
小惑星帯での出会い。
虹色の宇宙の美しさ。
追手との戦い。
市場での笑い。
トリオンとの出会い。
仲間たちとの絆。
怖さ、痛み、喜び、興奮、
そして、退屈を知らない毎日。
記憶が終わり、
草原に静寂が訪れた。
若い猫たちの目が、輝いている。
執行者たちでさえ、わずかに動揺している。
トリオンが、小さく、でもはっきり言った。
『私も、少しだけ記憶を加えるよ』
トリオンがミケロンの隣に立ち、自分の短い外宇宙体験――恐怖と、救われた喜びを共有した。
古き猫たちの幻影が、揺らぎ始めた。
革新派の猫たちが、一斉に声を上げた。
『変わりたい!』
『外宇宙と、繋がりたい!』
執行者たちのフィールドが、弱まる。
クロが困惑した声で言った。
『……これは……』
シロが、初めて感情を露わにした。
『ミケロン……君の記憶、本当に……こんなに、輝いていたのか』
古き猫たちの幻影が、ゆっくりと語った。
『……我らは、宇宙の観測者として、完璧を求めた。だが、完璧が、種族を滅ぼしかけていたとは……気づかなかった』
草原の風が、優しく吹いた。
ミケロンが、最後に言った。
『楽園は、変われるよ。観測だけじゃなくて、
時に干渉して、一緒に冒険する場所に。私たちが、その橋になる』
古き猫たちの幻影が、微笑んだように見えた。
『……許可する。ネコ・エリシオンは、新たな時代へ。外宇宙との、慎重な交流を』
執行者たちのフィールドが、完全に消えた。
若い猫たちが、歓声を上げて駆け寄ってきた。
『ミケロン!』
『ありがとう!』
『一緒に、冒険しよう!』
クロとシロが、ミケロンの前に跪くように座った。
『……負けたよ、ミケロン。君の勝ちだ』
ミケロンが笑った。
『勝ち負けじゃないよ。みんなの未来を掴み取っただけだよ』
太郎、リナ、ピコも、草原に座り込んだ。
リナが空を見上げた。
「綺麗だね、ここ。退屈じゃなくなったみたい」
太郎がミケロンの頭を撫でた。
「ミケロン、よくやったな」
トリオンが、みんなに囲まれて嬉しそうに尻尾を振る。
ピコが記録装置を起動した。
「この瞬間も、発信しよう。銀河中に、楽園が変わったって」
空の記憶の星に、新しい星が生まれた。
それは、ミケロンたちの冒険と、楽園の変革を記録した、一番輝く星だった。
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