第12話 新たな仲間と楽園の波紋
環状遺構を離れてから、三日後。
二隻の船は、銀河連合の管轄外にある小さな交易コロニー「ノヴァ・リム」に到着した。
ここは賞金稼ぎの目が届きにくく、フリートレーダーたちの隠れ家的な場所だ。
リナの古い知り合いが運営しているため、安全に停泊できた。
「シルバーフィッシュ」のラウンジで、三人は久しぶりにゆっくりと食事をしていた。
メニューは異星人のスパイスを使った肉の煮込みと、合成ビール。
ミケロンは実体化して、テーブルに前足を乗せ、小さくかじっている。
『味、まだよくわからないけど……温かさが伝わるよ』
リナが笑った。
「進歩だね。そのうち、量子ビットよりこっちが主食になるかもよ」
太郎はビールを飲みながら、ミケロンを見た。
「遺構でのこと、考えすぎるなよ。お前は正しい選択をした」
ミケロンが尻尾を軽く振った。
『うん。でも、楽園が変わろうとしてるのは本当だと思う。私の家出が、きっかけになってるなら……少し、嬉しいかも』
その時、ラウンジのドアがノックされた。
リナが立ち上がり、ドアを開ける。
そこに立っていたのは、小柄な異星人だった。
体長1メートルほどの、ふわふわした毛に覆われた二足歩行の生物。
種族は「ルナリ」と呼ばれる、情報処理に長けた種。
大きな耳と、三つの目が特徴的だ。
「リナ! 久しぶり!噂は聞いてるよ!観測者種族を乗せてるって」
リナが苦笑した。
「情報早いな、ピコ。まあ、隠す気もないけど」
ピコと呼ばれたルナリが、部屋に入ってきた。
ミケロンを見て、目を輝かせる。
『わあ! 本物の観測者!可愛い! 触ってもいい?』
ミケロンが少し後ずさった。
『……テレパシー読まれてる。この子、頭の中がすごい速さで回ってる』
ピコはコロニーの情報屋兼技術者。
リナの古い友人で、船の改造やハッキングを得意とする。
「実は、頼みたいことがあるんだ。
楽園の追手が本格的に動き出してるって情報が入ってきてさ。でも、同時に面白い話も」
ピコがホログラム装置を起動し、暗号化されたデータを投影した。
「楽園内部で、派閥ができてるらしい。保守派の古き猫たちは『ミケロンを強制連れ戻し、記憶吸収』って路線。でも、若い世代や一部の革新派は『外宇宙との交流を解禁しよう』って動きに出てる」
太郎が身を乗り出した。
「それって……ミケロンの影響か?」
ピコが頷いた。
「間違いない。家出個体の経験が、楽園に波紋を広げてる。一部の猫たちは、ミケロンの冒険を密かに観測して、刺激を受けてるんだって」
ミケロンが目を丸くした。
『私の旅を……見てくれてるの?』
「うん。観測者だから、遠くからでも見られるでしょ?ただ、干渉はできないけど」
リナが腕を組んだ。
「つまり、楽園は一枚岩じゃなくなってる。
味方がいる可能性もあるってことか」
ピコがにやりと笑った。
「その通り。で、私の提案なんだけど――
ミケロンの旅を、もっと積極的に発信しない?
暗号化されたチャンネルで、冒険の記録を流す。
楽園の若い猫たちに届けば、革新派が増えるかも」
太郎が眉をひそめた。
「危険じゃないか?位置がバレる可能性もある」
ピコが耳をぴくぴくさせた。
「それも計算済み。私のハッキングで、追跡不能にする。それに、コロニーの仲間たちも協力してくれるよ」
ミケロンが少し考えてから言った。
『……やってみたい。私一人の家出じゃなくて、みんなが変わるきっかけにしたい』
リナが笑った。
「決まりだね。私も乗るよ。面白そうだし」
太郎はため息をつきながらも、笑った。
「また面倒が増えたな……まあ、いいか。退屈しないのは確かだ」
こうして、新たな仲間ピコが加わり、四人(三人と一匹)の旅は、単なる逃亡から、楽園を変えるための冒険へと変わっていった。
遠くネコ・エリシオンでは、記憶の星の一つが、今までに見たことのない新しい光を放ち始めていた。
若い猫たちが、それをじっと見つめている。
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