第11話 遺構での決断と新たな道


環状遺構のホールに、静寂が重く落ちていた。

水晶の淡い光が、ミケロン、クロ、シロの三匹の猫を照らす。

太郎とリナは少し離れた位置で、息を潜めて見守っていた。


クロがもう一度、静かに繰り返した。


『ミケロン。楽園は変わろうとしている。あなたの経験が必要だ。外宇宙の混沌を、記憶として取り込めば、退屈症は治り、みんなが新しい驚きを知れる』


シロが優しく付け加えた。


『痛みはないよ。ただ、記憶を共有するだけ。

あなたは楽園の英雄になる』


ミケロンは水晶の前に立ち、尻尾をゆっくりと揺らした。


『……英雄かあ。昔は、そんなの夢見てたかも。楽園でみんなに認められて、特別な観測者になるって』


彼女の声に、懐かしさと寂しさが混じる。


『でも、今は違う。

私が見た混沌は、記憶として切り取れるようなものじゃない。

失敗したり、怖かったり、嬉しかったり……

全部、生きてるから意味があるんだよ』


クロの表情がわずかに硬くなった。


『生きる?外宇宙で追われ続けるだけの人生が?いつか賞金稼ぎに捕まるか、楽園に連れ戻されるか。それが、あなたの望みか?』


ミケロンが太郎とリナを振り返った。


『……違うよ。私は、もう一人じゃない。

太郎がいて、リナがいて、一緒に笑ったり、逃げたり、時には喧嘩したりできる。それが、私の選んだ道』


太郎が一歩前に出た。


「ミケロンは、俺たちの家族だ。お前らに渡す気はない」


リナも銃を構え直した。


「私も同じ。自分の人生を他人に決められるなんて、ごめんだよ」


シロが悲しげに目を伏せた。


『……残念だ。なら、力ずくで連れていく』


クロとシロの体が光に包まれ、

重力操作の波動がホールに広がった。

壁が振動し、水晶の光が乱れる。

戦いが始まった。

太郎とリナは即座に遮蔽物に隠れ、

リナの銃で援護射撃。

クロとシロは流れるように動き、

光の刃や重力フィールドで攻撃してくる。

ミケロンは水晶に深く意識を繋げた。


『この遺構のエネルギー、まだ少し残ってる!

守護者システム、再起動できる!』


水晶が激しく輝き、

ホールに光の猫たちが再び現れた。

古代の守護者たち。

数は少ないが、クロとシロを抑え込む。

クロが叫んだ。


『ミケロン!

こんな古いシステムに頼って、どうする!?』


ミケロンが答えた。


『頼ってるんじゃない。

これも、私の選択だよ!

過去の観測者たちだって、きっとこんな日を想像してなかった。

完璧な楽園だけが正しいなんて、決めつけないで!』


守護者たちがクロとシロを包み、

動きを封じる。

シロが最後に呟いた。


『……変わってしまったね、ミケロン。外宇宙に、染まってしまった』


ミケロンが静かに言った。


『染まったんじゃない。成長したんだよ』


守護者の光が強まり、

クロとシロの姿が空間の歪みに吸い込まれていく。


『これは……終わりじゃない。楽園は、あなたを待ってる』


二匹の姿が消えた。

ホールが静かに戻る。

守護者たちも光の粒子となって消え、

水晶の輝きが弱くなった。

ミケロンがふらりと倒れ込みそうになるのを、

太郎が抱き止めた。


「……よく言ったな、ミケロン」


リナも銃を下ろし、笑った。


「かっこよかったよ、家出猫さん」


ミケロンが弱々しく笑った。


『……ありがとう。でも、楽園は本気だよ。次来るときは、もっと大規模かも』


太郎は頷いた。


「なら、こっちも準備する。もう、逃げるだけじゃない」


三人は遺構を後にし、船に戻った。

環状遺構は、ゆっくりと回転を続け、

宇宙の深淵に沈んでいった。


だが、ミケロンの決断は、

遠く楽園に波紋を広げていた。

古き猫たちの間で、

「外宇宙の混沌を本当に取り入れるべきか」

という議論が、

静かに始まろうとしていた。



そして、三人の旅は、新たな段階へ進む。

逃亡から、自分たちの道を切り開く旅へ。

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