第8話 賞金稼ぎの影と意外な味方
「はちわれ丸」はカオス・バザールを全力で離脱した。
後方から三隻の小型追跡船が迫ってくる。
市場で声を上げた賞金稼ぎたちの船だ。
武装は軽めだが、数で勝負というところだろう。
明らかに、楽園の報酬を狙っている。
太郎は操縦桿を握り、近くの小惑星帯へ突入した。
「くそっ、市場の連中まで動き出したか……
ミケロン、シールド全開!
お前の能力で何かできないか?」
ミケロンは膝の上から実体化し、前足をパネルに置く。
『やってるよ!でも、量子ビットは攻撃より防御向きだから……時間稼ぎくらいなら!』
船のシールドが強化され、追跡船の軽い射撃を弾く。
小惑星帯の岩陰を縫うように逃げる。
太郎の操縦は、採掘船乗りとしての経験が活きていた。
古い船でも、岩の隙間を巧みに抜ける。
一隻の追跡船が岩に衝突し、爆発。
残り二隻は慎重になるが、諦めない。
『このままじゃ、燃料が持たないよ……
近くに隠れられる場所、探してる!』
ミケロンがテレパシーで周囲をスキャン。
突然、通信が入った。
未知の周波数。
『――こちら、フリートレーダー「シルバーフィッシュ」。
採掘船さん、追われてますね?
助けたければ、座標に従ってきてください』
声は落ち着いた女性。
人間らしいアクセント。
太郎は一瞬迷った。
「罠か?」
『わからないけど……この人の思考、読んでみる。
……敵意はないよ。むしろ、賞金稼ぎを嫌ってる感じ』
「わかった。賭けてみる」
太郎は船を急旋回させ、指定座標へ。
小惑星帯の奥、巨大な岩の裏側に、中型貨物船が隠れていた。
「シルバーフィッシュ」。
船体は擦り傷だらけだが、武装がしっかりしている。
貨物船のハッチが開き、誘導信号が出る。
「はちわれ丸」は急いでドッキング。
追跡船二隻が追いつく直前、ハッチが閉まった。
内部のエアロックが開き、太郎とミケロン(ホログラムモード)が出る。
待っていたのは、銀髪の女性だった。
30代後半くらい。
革ジャケットに銃を腰に下げ、片目に古い義眼。
「ようこそ。リナ・カーター。この船の船長だ」
太郎は警戒しながら名乗った。
「田中太郎。「はちわれ丸」の船長。
助けてくれて、ありがとう」
リナはミケロンのホログラムを見て、にやりと笑った。
「可愛い相棒ね。噂の家出猫さん?」
ミケロンがびくっとした。
『……知ってるの?』
リナは肩をすくめた。
「カオス・バザールで情報はすぐ回る。
楽園の観測者種族が、若い個体を追ってるって話。報酬も出てるらしいけど……
私は、ああいう古い種族のやり方が嫌いなんだ」
太郎は少し警戒を解いた。
「なんで助けてくれた?」
リナは船内を歩きながら案内した。
「昔、似た経験があるからね。私も、若い頃に家族から逃げ出したのさ。銀河連合の貴族の家系でさ、決められた人生が嫌でね」
船内は貨物室が広く、密輸品らしきコンテナが並んでいる。
フリートレーダーとは、表向きの肩書だろう。
「それに……
観測者種族の話、昔から興味あったんだ。
宇宙の秘密を知ってるって本当?」
ミケロンが少し考えてから答えた。
『少しだけね。でも、全部話すのは難しいよ』
リナは笑った。
「無理に聞かない。
ただ、追っ手を撒きたいなら、協力するよ。
この船の隠し機能を使って」
彼女はブリッジに案内し、パネルを操作した。
「シルバーフィッシュ」は偽装シグネチャを発信。
外から見ると、ただの漂流貨物船に見える。
追跡船二隻が近くを通り過ぎていく。
スキャンするが、反応なし。
諦めて去っていった。
太郎は息を吐いた。
「……助かった。本当に」
リナはコーヒーを淹れながら言った。
「礼はいらない。ただ、一つだけお願い」
「何だ?」
「少しだけ、旅に同行させて。次の補給地まででいい。観測者種族の話を、直接聞きたいんだ」
ミケロンが太郎を見た。
『……どうする?この人、信頼できそうだけど』
太郎は考えた。
――一人で逃げるより、味方がいた方がいい。
それに、リナの船は強そう。
「わかった。ただ、危険は伴うぞ」
リナは満足げに頷いた。
「危険は商売の友だよ」
こうして、新たな同行者が加わった。
「シルバーフィッシュ」と「はちわれ丸」は連結し、
小惑星帯を離れ、次の宙域へ向かった。
だが、リナの義眼が、時折ミケロンを観察していることに、
太郎はまだ気づいていなかった。
彼女の興味は、単なる好奇心以上のものかもしれない。
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