「呪い」って漢字が書けるようになったよ

 わたしは「のろい」が何か知ってる。

本で読んだことがある。


「この人に、何か、悪いことが起こりますように」


そう思いながら、何かをすること。


  🦈


 一日おとまりしたひなたくんが帰ってから、

わたしはおねがいを自由帳に書いた。


「ひなたくんの大切な物が、よごれますように」


  🦈


 その後は、さっそく、図書館へ行った。

前に読んだ「のろい」の本を探すために。

近所にあるから、自転車で行ける。


 「のろい」の本はすぐに見つかった。


幽霊退治少女ゆうれいたいじしょうじょ マミカ・ベネイトル」


主人公のマミカちゃんがゆうれいをたいじするお話。


 この第二話が、「のろい」、……じゃなくて、「呪い」のお話で、

呪いできらいな人をころそうとした子が、

ぎゃくにその呪いにころされて、ゆうれいになる。


(わたしはころされないようにしなきゃ!)


そのためにも、ちゃんとお勉強しないと!


  🦈


 前も読んだけど、もう一回呪いの本を読んだ。

ゆうれいの子、みどりちゃんがどうして失敗したかがわかってないと、

わたしは成功しない。


 このお話に出てくる呪いの方法は、二つ。


・わら人形(※1)

(※2)


だ。


  🦈


 みどりちゃんは「」の方でころされた。

うっかり、フタを開けたから。

フタさえ開けなければうまくいきそうだけど、こわい。


 だから、わたしは「わら人形」を試すことにした。


  🦈


 「お母さーん、あのー……」


リビングのソファで何かをしているお母さんに声をかけると、


「あ、ハチワレちゃん、お洗濯したらきれいになったわよ」


手元からわたしの方に向いて、そう言った。


「本当!?」


わたしは口元に手を当てて、たずねた。


「ぬいぐるみってね、『洗ったらダメ』って書いてあっても、乾きさえすれば何とかなるの。

 まだ乾いてないけど、干してたら中まで乾きそうよ。

 小さいからね」


すると、お母さんはおせんたくのプロみたいなことを言った。

さすが、お母さん。


  🦈


 ……そうそう、わら人形。


「あの、お母さん、おうちにってある?」


「『藁』?」


わたしが聞いたら、お母さんはすぐに返した。


「『藁』?」


そして、もう一回言った。


 その反のうで、

わたしは「これはダメだ」ってわかったから、

一生けんめいに考えたけど、何もいいアイディアがうかばない。


 そしたら、


「お母さん、それなぁに?」


とたんに、お母さんの手元が気になった。

茶色くてまぁるいかたまりと、ペンみたいな物がある。


「フェルトよ」


お母さんは教えてくれた。


 でも、「フェルト」って、こんなんじゃない。

家庭科の時間に、フェルトでコースターを作ったことがあるから、知ってる。


「フェルトって、ぬのじゃないの?」


学校で配られたのは、四角くてきれいな色のぬのだった。


「それもフェルトだけど、これは『ニードルフェルト』っていうの。

 ほら、これ」


そう言って、お母さんは茶色いわたみたいな物を見せてくれた。

それから、


「これにこの針を刺し続けたら、形になるの。

 今、クマのお人形作ろうかなって思っててね」


ペンみたいな物のとがってる先を上に向けて、説明してくれた。


 わたしの中で、つながった。


(お人形にはりをさすってことは、それ、わら人形とおんなじじゃない!?)


わらで作ったお人形にはりとかくぎとかをさすのが「わら人形」だから、

ニードルフェルトは「ほぼわら人形」だ!

それに、わらはないみたいだから、もう、わたにさすしかない。


 わたしはすぐにソファにすわって、

お母さんからフェルトのお人形の作り方を教わった。


  🦈


 三日後、ひなたくん人形はできあがった。

お母さんは何のうたがいもなく、ゆうパックで出してくれた。


 わたしは自由帳に、決意を書き足した。


「呪ってやる!」


  🦈


⚫︎ひなたくんから愛美への手紙

-----


あいみちゃんへ


 このあいだは、かわいいおにんぎょうをおくってくれてありがとう。

 おにんぎょうがとどいた日、サッカーの試合しあいで、ゴールできたんだ。

だから、それのプレゼントみたいだと思った。

これからも、がんばろうって思った。


 うれしかったから、

ぼくも、あいみちゃんにプレゼントをあげるね。


 ハチワレちゃんのこと、ほんとうにごめんね。

 

ひなたより


-----


 わたしはゆうパックでおくられてきたハンカチを手ににぎりしめていた。

うさぎさんの絵がかいてあって、すごくかわいい。


 ……そうじゃない!


(漢字が読めないと思って、わざとかんたんに書いてるんだなー?

 自分の名前くらい読めるもん!)


このお手紙はそういうことだ。


(呪ってやる!)


  🦈


 わたしは決めた。

あぶないかもしれないけど、決めた。


 を使う!!


 の「こ」は「虫」が二個か三個か四個の字で、

「どく」は「毎」みたいな「春」みたいな字。

字だけで、もう、こわいってわかる。

失敗したらしんじゃうんだろうなってわかる。


 方法は、


一・虫とかの生き物を集めます

二・つぼとかビンとかに全部入れます

三・中で最強の生き物が決定します

四・その生き物が呪いをかけてくれます


かんたんに言うと、こうだ。


 でも、


(虫こわい…)


わたしはふつうの女の子なので、ふつうに虫がこわい。


  🦈


 決心して公園に行ってみたけど、

てんとう虫ですらこわいわたしには、むりだ。

セミがいっぱい鳴いてるけど、ぜったいにさわれない。


 虫がいそうな所には、お花がさいてる。

お花は好き。

かわいくてきれいだから。

 でも、そこにたかってる虫はきらい。

アブラムシっていうの?

緑色の小さい虫が気持ち悪い。


(ん? 待って)


わたしはひらめいた。


  🦈


 わたしはお花をいっぱいつんだ。

花だんのじゃなかったらいいと思って、

地面に生えてるのをいっぱいつんだ。


 おうちに帰ったら、すぐにキッチンだ。

わたしはそのお花をキッチンペーパーの上にならべた。


 すると、お母さんが来て、うれしそうに言った。


「あら、押し花? 懐かしい!」


そう、そのとおり、

わたしはおし花を作るつもり。

どうしてかって言うと、

お花と虫はセットだから、

お花はほぼ虫ってことになるんだって気づいたから。


 やっぱり、お母さんはさすがだった。


「レンジでやったら早いわよ」


何と、食べ物でもないのに、お花をレンジするらしい。

わたしはこれからぶあつい本をたくさんじゅんびしないといけないのが大変だなぁと思ってたから、

お母さんにおし花の作り方を教えてもらうことにした。


  🦈


 おし花はすぐにできあがった。

わたしはお母さんからジャムが入ってたビンをもらって、

その中にそのおし花を全部入れて、

最後にフタをした。


「あら、きれいね。

 これ、夏休みの自由研究?」


お母さんはをほめてくれた。


「ううん、ひなたくんにあげるの」


わたしがふつうに答えても、


「ああ、ハンカチもらっちゃったもんね」


お母さんは何もうたがわなかった。


 おし花にしたのは、

こうしておけば、くさったりしないから、

ひなたくんに気づかれないだろうって思ったからなんだけど、

お母さんも気づかないし、これはいいんじゃないかな?


  🦈


⚫︎ひなたくんから愛美への手紙

-----


あいみちゃんへ


 すごくきれいなものをありがとう。

つくえにおいたら、おへやが明るくなったよ!


 ぐうぜんなんだけど、

この置き物がとどいた日、

フラッグフットボールの試合しあいで、タッチダウンを5回もしたんだ!

こんなこと、なかなかないんだよ?

また、プレゼントだね!


 ぼくはおとなになったら、フットボールのせんしゅになりたいから、

もっとがんばって、ほんとうにせんしゅになって、あいみちゃんに試合を見てもらいたいな。


ひなたより


-----


 おかしい。

わたしは呪いたいのに、

ひなたくんはぜんぜん呪われてくれない。

お手紙には、ひなたくんの大切な物がよごれた話は書いてない。


  🦈


 わたしは自由帳を開いた。


「ひなたくんの大切な物が、よごれますように」


の下に、


「呪ってやる!」


って書いたはずだったのに、


――「祝ってやる!」――


そこには、そうあった。


  🦈


  つづく


  🦈


※1 藁人形(わらにんぎょう)は、藁を束ねたり、編んだりして人間の形を模した人形である。

※2 蠱毒(こどく)は、古代中国において用いられた呪術を言う。

(いずれもWikipediaより抜粋)

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