第5話 青羽の脳
兄姉が到着したらしい。
下の階が騒がしくなる。さぞ暴れていることだろう。
あの調子じゃあここまでくるのも大して時間はかからなそうだ。
2人にしてはここを突き止めるのが早い。
私のように取引を持ちかけて返り討ちにされた説が濃厚か。
「来い」
汗を額に滲ませたヒョロガリが私の腕を引く。状況が悪いらしい。
こいつ、意外と筋肉質だ。脱走を試みたが厳しそうである。
バレない程度に舌打ちをして、おとなしくヒョロガリについていく。
細くて薄暗い通路を通り、連れてこられたのはまたもや窓がない部屋だった。
もしかしたらここは地下なのかもしれない。
「ボス。青羽の者を連れて参りました」
「ありがとう。下がっていいよ」
ここに連れてこられたどの男よりも背の低い、男の子、そう言った方が適しているような男に言われてヒョロガリは部屋を出ていく。
私ひとりでは戦力にならないと思われているのか、この部屋には護衛がいない。どこかで待機しているのかもしれないけれど、今この部屋にいるのはボスと私の2人きりだ。
「来てくれてありがとう。青羽月渚さん」
「……どうも」
彼は私の名前を知っていた。
任務中は兄姉は私のことをルナと呼ぶから本名がバレることはまずない。
となると私を知る人物。
男が振り返る。
「……山峰くん」
それは私がよく知る人物だった。
「学校ぶりだね。せっかく会えたところ申し訳ないんだけど、やっぱり僕たちの仲間になるつもりはないのか?」
「ないと言ったら?」
「君を殺すしかなくなる。君は青羽の脳なんだろう?脳を潰せば体は機能しない」
まるで余裕の笑みを浮かべて山峰くんは言った。
「わかるだろう?僕たち裏社会の人間は君たちが邪魔なんだ。どうして手を貸す?どうして手を貸した相手を殺す?この社会は弱肉強食でいいじゃないか」
「弱肉強食だからでしょう。私たちは強い。だから何をしたって弱いあなたたちには関係ない」
「笑えないな……!」
煽ればすぐに乗ってくる。
彼の拳を腕で受ける。なかなかに重い一発に私は驚く。
「まさか学校だけの僕が全てだと思っているわけじゃないだろうな?」
「あなたこそ」
お互いに距離を取って構えた。
どうしたものか。
考える間も無く山峰くんは攻撃を仕掛けてくる。
「どうした!やり返してこないのか!」
流石に受け身だけでは私の方が持たない。
応戦する?でも私の勝ち目は薄い。
兄姉の到着まではあと数分はかかりそうだ。
なんとかそこまで……と、背後の扉が勢いよく破壊される音がする。
「……ルナを誘拐したのはお前か」
「ルナちゃん、助けに来たよ」
「2人とも……」
なんとか間に合ったようだ。
いつもより息が荒い。だいぶ無茶をしてきたのがわかる。
「クソッ……いけ!奴らを足止めしろ!」
今度は山峰くんの背後の扉が勢いよく開いて大勢の男が一斉に出てきた。
「ルナちゃんは下がってて」
私が参戦したところで邪魔になるだけなので大人しく後ろに下がる。
「いくぞ」
「うん」
兄姉は背中合わせになってから前にいる敵と対峙する。
鮮やかで素早い攻防に私は目をみはる。
さすが双子と言うべきか。ぞっとするほど息の合った動きで相手を翻弄している。
正直、戦闘をする2人は好きじゃない。血を求める獣のような姿に、私が1番恐怖していると言っていいほどに。
善戦していた相手も、気づけば床に臥していた。
「や、やめてくれ、命だけは!!」
兄姉は息を整えつつ、1人だけ生かされている山峰くんを見下ろしている。
「あ、青羽さん!君は僕のことが好きだったんだろう!?なんでもするよ!そうだ!僕たち付き合おう!」
「ルナちゃん、こいつは私が」
姉が彼に刃先を胸元に突きつける。
私はそんな姉の横に並んで首を振った。
「……!青羽さん、君ならわかってくれると」
返り血が私の頬にかかる。
言葉は最後まで聞けなかった。
彼は死んだ。
「……ふっ……あははっ」
おかしくておかしくて、私は笑いを堪えられない。
あんなに威勢がよかったのに、今ではこの様だ。
「ルナ……こいつは」
「ほんと情けない。私があなたを好きなわけないのに」
彼がこの組織のボスだということは元から知っていて、だからこそ近付いた。
同級生とやり合うなんて面白いことはなかなかないもの。
「あははははっ!全部ルナちゃんの手のひらの上か。さすが私たちのお姫様!」
お姉ちゃんが私に抱きつく。
「はぁ……月渚。帰ろう」
「うん」
私は星羅お兄ちゃんにお姫様抱っこされて部屋を去る。
その間、綺羅お姉ちゃんは私にかかった返り血を丁寧に拭ってくれた。
「こんなの、2人が手を汚すまでもないよね」
この世は弱肉強食。弱いものは強いものに食われるのが当然の世界だ。
完
シスコン兄姉の妹 十坂すい @10s_akaSui
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