第3話 取引

今日から双子のどちらかが私と一緒に登下校を共にしてくれることになった。


そもそも、裏の奴らになぜ私の存在がバレたのか?

それは絶対にこの兄姉のせいだ。

2人は顔が割れているのに、堂々と私の授業参観に来たり保育園のお迎えに来ていたり、平気で一緒にいろんなところを出歩き回るせい。


今や裏社会は国家や警察が見逃すしかないほど強大な力を持っている。

どこにいても裏の目は光っているということを少しは自覚していただきたい。


でも、だからこそ、なのかもしれないと私は思う。

どこにいても見られているし、狙われている。

だったら隠す必要はないのかもしれない、と。

兄姉の狙いがなんなのかはわからないけれど。


……うーん、でもやっぱり私のことは隠しておいた方がいい気もする。

こうして巻き込まれているし。

今更か。


「なぁ聞いてたか?」

「ん?」

「学校の話。月渚の隣の席のやつ、あいつお前のこと好きそうな目をしてた。誰だ。どこの組織のやつだ?」


そこまで見てたんかい。

厄介なことになった。彼、山峰くんは私の好きな人、だったりじゃなかったりする。


「お前、まさか……」

「な、なに。いいでしょ、べつに……」

「っ……!」


兄は高速でスマホを操作する。


「綺羅」


姉?兄は姉に電話をしている。


『いやあああああっ月渚ちゃんダメ!!彼氏なんて認めないんだから!!!』


電話越しに聞こえる爆音に兄は思わず顔をしかめている。


「お、お姉ちゃん、私そこまで言ってな……ぃ」

『今夜家族会議するから!!!』


遠くで銃声の音がする。

そんな場所で呑気に電話なんてするもんじゃない。


流石に切羽詰まっていたのか、ブツリと電話が切れた。




***




「嫌だよ、お姉ちゃん。月渚ちゃんがお嫁さんに行っちゃうなんて……」


翌日。今日は姉が一緒だ。


「だからそこまで言ってないってば……」


深夜まで続いた家族会議のせいで眠気がすごい。

今日の授業、寝てしまったら兄姉のせいだ。

山峰くんの隣で寝るなんて失態、しないようにしないと。


「じゃあ、あとは遠くで見てるね。学校がんばってねっ」


一方的に熱い抱擁をして、姉はさっと見えないところに身を隠した。

もう学校も近い。

生徒も増えてきているから気を遣ってくれたのだろう。

姉といい兄といい、こういうところはしっかりしている。


「私もがんばろ」






***






そしてこれだ。

私は誘拐された。それも校内で、だ。

姉からの連絡が遅い。


何かあった?通信が阻害された?そんなことしたらすぐに誘拐がバレる。……なら、私が死角で襲われたか。


自分自身、なにが起こったかわからないまま眠らされて目隠しをされたので、どこにいて、どうなっているかがさっぱりわからない。


視覚、味覚以外の五感で感じるのは冷たい空気だけだった。


「う……っ」


いきなり目隠しを取られて視界が歪む。

こいつら、さっきから気配がしない。


視覚を取り戻した私は瞬時に状況を確認する。


窓のない無機質な部屋。私は高そうなソファに座らされていた。

目の前にはヒョロガリの男。その後ろに扉。

周りは護衛であろう男どもが並んでいた。


隙を見て逃げられそうにはないな……。

いくら私が護身術を心得ていたとしても、この人数と体格差は無理だ。

無駄な抵抗はしない。


「あなたが私を誘拐した主犯なの?」


相手が話しそうにないので私から話しかける。


「おや、全然怖気付かないな。あれだけ兄や姉に愛されている妹なんだろう?もう少し怖がると思っていたのに」

「笑わせないで。あの2人の妹なのに今までこうされなかったことが不思議なくらいだわ。いつでも覚悟はできているつもりだけど。不満だった?」

「ははっいいよ。その余裕がどこまで続くか見ものだね。で、俺が主犯かという質問だけれどね。俺ではないよ」


ならこいつは私との仲介役、見張り役、というところだろうか。


「俺と取引をしよう」

「取引?」


男がずいっと前に出て言った。

私に取引を寄越すなんて。


「簡単な話だ。お前のことが大好きな兄と姉。2人を差し出せ。俺はボスからお前を始末せよとの使命を受けている。だが、兄姉を差し出すならお前の命は助けるし、今後もお前の身の安全を約束しよう」

「それだけ?なら、取引は不成立ね。2人の命は私よりもずっと重い」


始末、か。


私たち青羽は連中の味方をする時もあれば、敵対することもある。

こちらに有益な依頼であればなんでも受ける。そうして私たちは生きてきた。


だから、裏社会で大きな戦力を持つ2人が他の連中からしたら邪魔なのだろう。

いつ敵対勢力から依頼を受けて青羽が襲いかかってくるか。不安要素は潰しておきたいのは当然のことだ。


「そうか。じゃあお前を殺そう。直に奴らもお前を助けにくるのだろう?目の前で一思いにやってやるから安心しろ」


怒りを滲ませた顔で男は去っていく。


わかりやすいな。もっと頭が切れるやつであれば、もっといい条件を持って帰れただろうに。

……私を今ここで殺さないなんて。


「ぬるいなぁ」


私しかいなくなった部屋で、その言葉が響いた。

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