魔女と勇者 ~ 祝い ~

勇者が、魔王を、倒した!

第三王女を愛し、その愛ゆえに勇者となった侯爵令息が、魔王を倒した!

世界は平和になった!

もう魔物に怯えることはない!

祝え! 

祝え!



王都の住人たちが喜びに沸き上がる。祭りが連日連夜、行われて。

誰もかれもが喜びを口にする。

王都だけじゃない。近隣の街や町、村……、喜びは広がり、祭りが行われた。

祝いを、侯爵令息に対する感謝を、第三王女との愛の軌跡を……伝えていく。

喜びが国中に広がっていく。


滅ぼされた、あたしの村、以外の場所で。


……ふざけるな。


あたしは……魔女になったあたしは、鏡に映る国中の様子を見て、唾を吐く。


ふざけるな。

魔王を倒したのは侯爵令息なんかじゃない。

あたしの大事なあの人だ。


乾いた草みたいな、ほんのりと緑がかった薄茶色の髪と瞳。

笑うと八重歯が見えて、かわいいの。


大好きで大好きな、あの人。


田舎の町で一緒に育って。そのうち結婚して、子どもを産んで。畑で作物を作って、山羊も育てて。

そうして、どこにでもいる田舎のお爺ちゃんとお婆ちゃんになって、手を繋いで一緒に天国に召されるの。


そう思っていたのに。


あの人は……勇者になった。


田舎の村はのんびりしていて。

この国だけじゃなくて他国も、魔王や魔物に襲われているなんて、全然知らなくて。


朝早く起きて、洗濯をして、料理をして、家畜の世話をして……、毎日が同じ繰り返しで。


つまりは平和で。


村以外の世界が、どんなふうになっているのかなんて、全然知らなくて。


いきなり、神官御一行様がやって来て、聖剣を抜ける勇者を探している……なんて、言った。

なにそれ。子ども向けの童話の話? 物語? お祭りのときの出し物とか?

あたしは笑っちゃったけど、神官たちは真剣だった。


村の男たちが、一人残らず、白銀の剣に触れた。

鞘から剣を引き抜けって言われて、村長も力自慢の男たちもみんな剣を取って。

誰一人として、抜けなかったのに。


あたしのあの人が、剣に触れた瞬間に、剣が淡い光を帯びた。


「え……?」


あの人は、光り出した剣を見て、ぼんやりと呟いて。


そうして、剣は鞘から抜けた。白銀の光を放ちつつ、抜けてしまった。


「勇者だ!」


神官たちが騒いで。


あの人が呆然としているうちに、神官たちが乗ってきたご立派な馬車にあの人を押し込んで。


「ちょっと待って!」


あたしは叫んだ。

あの人も、叫んだ。


待って。

だって、あの人、あたしに言ってくれていたの。


「その……、もうすぐお前の誕生日だろ。ほ、欲しいものとか……あるか?」


顔を真っ赤にして、どもりながら。だけどあたしの目を見て言ってくれた。


もうすぐ、あたしの誕生日。あたしは十五歳になる。ウチの国では結婚ができる年。

お互いに、好きあっているのはなんとなくわかっていたけど……。

正式に、というか、ちゃんと……求婚してくれるのかなとか。嬉しく思って。誕生日が来るのが待ち遠しくて。


「あのね。バラの花とか百合の花とか、そんなのは要らない。その丘に生えている、名もない黄色いかわいい花。それを摘んで、あたしに好きって言ってくれたら嬉しい」


あたしが、浮かれて言ったら。あの人も照れながら「分かった」って言ってくれて。


「た、誕生日、楽しみにしてろよ!」


楽しみにしていたのに。

まだ求婚されていないのに。


茫然としているうちに、あの人は、連れていかれてしまった……。


あの人の両親や村長に何か説明することもなく、神官たちは、あの人を馬車に放り込んで、連れて行ってしまった……。


その後、あの人がどうなったのかなんて、あたしにも村の人たちにも分からない。

あの人のご両親あての手紙や通達すらない。


ただ……、一年近くの時間が流れて。

勇者が、魔王を倒す旅に出たっていう噂が……近くの村からウチの村まで伝わってきた。


いろんな、噂。


勇者はすごく強いとか。

白銀の剣を振るって、魔物をバタバタと倒すとか。

魔王を倒した暁には、勇者は第三王女と婚姻を結ぶとか。

侯爵家のご令息が、勇者を助ける従者として、魔王を倒す旅に同行しているとか。


噂、だけは、いくつか、流れてくる。


だけど、村の暮らしは変わらない。

朝早く起きて、洗濯をして、料理をして、家畜の世話をして……、毎日が同じ繰り返しで。


たまに、流れてくる噂。

どこどこの村を勇者が救った。

なんとかっていう魔族を滅ぼした。

魔王の片腕と呼ばれるような強い魔物を勇者一行が倒した。

まもなく勇者一行は魔王城に辿り着き、魔王すら倒すことだろう……。


ああ……。

村は、平和で、毎日が同じ繰り返しで。

魔王も勇者も何もかも、童話とかお芝居とか、作り話にしか思えなくて。


あたしとは、無関係な、遠い世界のお話。


あの人が、この村に、あたしの側にいれば。

大変だねえなんて、他人事で、作り話を楽しむみたいに、二人で笑っていたはずなのに。


勇者は、あの人で。

あたしの大好きな、あの人で。


ああ……。

分からない。

あたしには、何が何だか分からない。


呆然と、毎日を過ごしていたら、母に呼ばれた。


「……ホントは、おまえが婚姻後に伝えるつもりだったんだけど」


母は、あたしを……ウチの裏にある丘を進んで、森の中にある小さな家に連れて行った。


「何これ……」

「……ウチの家の女はね、婆さんの婆さんの婆さんの……どれくらい昔に遡ればいいのか分からない前から、この家を受け継いできた」

「お婆ちゃん? 受け継ぐ?」

「今日からお前がこの家の掃除をするんだよ」


掃除?

受け継ぐとか何とかじゃなくて、掃除っていう仕事を増やされたの?


ぐるっと、家の中を見る。

小部屋には分かれていない、納屋とか山小屋みたいな感じの小屋。

低い天井、小さな部屋。テーブルと椅子が二つ。暖炉の上には小さな鍋。壁には枯れた何かの植物が干されたままになっていて……。それから小さな、四角いモノが壁にかけられていて、窓から入ってくる日の光を反射していた。


何だろう? すごく気になる……。


「座って」


言いながら、母は、壁からその四角いモノを外した。母が片方の椅子に座り、あたしももう片方の椅子に座った。


「これは、鏡という道具」

「かが……み?」

「そう。覗いてごらん」


四角いモノを受け取って、じっと覗き込む。

そこに映っていたのは……日に焼けて、そばかすだらけの女。


「え……っと? これ、あたし……?」


川とか洗面器に張った水とか。

ぼんやりと映る姿や顔なんかじゃなく、そばかすの点々、一つ一つまでがくっきりとはっきり見える……。


「そう。写すモノ。映すモノ。そして、移すモノ」

「うつ……す……」

「ウチの家系には、昔、魔女って呼ばれていた女がいてね。その血筋を受け継いでいる。この家も、元々は魔女が住んでいた小屋」

「魔女……」

「婆さんとか、私の代じゃあもう、魔女の力なんてほとんど残っていないけどね」


ああ、でも……母は、しばらく晴れるよ……とか、明日から雨になるよ……とか、天気を予測して、それがよく当たってたっけ。

それから……こんな田舎の村人なのに、母も祖母も文字が読めた。書くのはもう無理とか言っていたけど。

あたしにも読み方は教えてくれていた……。


「母から娘にこの鏡の所有権を渡すのは、本当は娘が婚姻を結んだ後。でもアンタはあの子と……ホントなら、そろそろ結婚していたと思うし……」


神官なんかに連れていかれなければ、今頃。

あたしはあの人と一緒に暮らしていただろう……。


「それに、ちょっと嫌な予感というか……、受け継がせておいたほうがいいって、ふっと思ってね……」

「母さん?」


眉根を寄せる母。

天気は、当てる。だけど、嫌な予感? 予感なんて言葉、初めて聞いた……。


「とにかく。この家の掃除。それから鏡はきちんと磨くこと。いいね?」

「う、うん……」

「ああ、あと、一つだけ、気をつけて。『神に祈りを捧げるのは良い。だが、神以外に祈るのは呪いに転じる』」

「え?」


何か……怖いことを言われたような気がした。

祈り。

呪い。

胸がドキドキした。


「……意味を、ちゃんと知っているわけじゃない。だけど、婆さんから伝えられた言葉だ。アンタも、アンタの娘が出来た後、この家と鏡を受け継がせるときには伝え忘れないようにね」

「う、うん……」


それから。雨とか天候が悪い時以外には、あたしはほとんど毎日この小屋に来て、掃除をして鏡を磨いた。


母に言われたからじゃなくて。

この小屋にいると、不思議に落ち着いて……。


鏡を磨いて、壁にかけなおす。

そして、その鏡に向かって……祈る。


「神様。どうか、あの人を、無事に、あたしの元に帰らせてください」


祈る。

帰ってきてくれるのならいくらでも待つ。

どうか無事で。


祈る以外、できることはなくて。


そうしていたら……、鏡にぼんやりと何かが映るようになった。

最初はうごめく影程度にしか見えなかった。

だけど、次第に。

鏡には、乾いた草みたいな、ほんのりと緑がかった薄茶色が映るようになった。

見間違えるはずはない。あの人の、髪と瞳の色。


祈って、祈って、祈って……。いつしかはっきりと、あの人の姿が見えるようになった。


『いつになったらオレは村に帰れるんだ?』


あの人の声も聞こえた。


『魔王を倒せば』


黒髪の、眼光鋭い男の人が、あの人に答えた。


『なあ、褒賞なんて要らないから。すぐに帰らせてくれよ。村にはオレの好きな女がいるんだ。帰りを待っていてくれるんだ』

『そうか……』

『頼むよ。帰ったら、すぐに求婚するんだ』

『そうか……』


ああ……。お願い。どうか、無事で。

魔王なんて、世界なんて、どうでもいいから。

あたしに、あの人を、返して下さい。


鏡は、不規則に、気まぐれに、あの人の姿や声をあたしに届けてくれた。

あたしは毎日のように鏡を丁寧に磨いて、祈りをささげた。


どのくらい、そうしていたのか。


鏡は、魔王を倒すあの人の姿をあたしに見せてくれた。


あの人は、怪我はしていたけど……無事だった。


あたしは神様に祈った。ありがとう、ありがとう、ありがとう神様。

あの人が無事でよかった。


あとはあの人が、この村に、帰ってきてくれれば。

この数年間なんて、なかったみたいに、当たり前に……、朝起きて、畑の様子を見て、家畜を世話して……、昨日と同じ今日、今日と同じ明日を繰り返して……、いつか、子を産んで、老いて、一緒に天の国へ行ける……。


そう思ったのに。


あの人が魔王を倒した喜びを、母や父、村の人に伝えよう。

そう思って、小屋から丘を駆け下って行ったら……。


村が、家が、畑が、燃えていた。


「何……? 何なの……?」


火事。最初に思ったのは、それ。

どこから火が起こって、風にあおられて、燃え盛って、延焼して……。


でも、違った。

馬に乗って、駆け回り、家に火を放ち、村人たちを、剣で切って回っている大勢の男たちがいた。


強盗?

まさか、こんな田舎の村に?


しばらく呆然として、そして……剣を持った男が、あたしを見つけた。


「何だ、まだ生きている村人がいたのか」


あたしは逃げた。元も小屋に。あそこなら、まだ焼けてはいない。

逃げて逃げて……、でも、小屋の前で、追いつかれた。

蹴とばされて、腹を、剣で刺された。

男は、あたしを刺してから、小屋に火を放った。


ああ……、あたし、死ぬのね。

小屋も、燃やされて……。


どうして?

分からない。


でも、死ぬのなら、せめて、あの人の顔を見ながら死にたい。


ずるずると這って。燃えている小屋に入って。壁にかけている鏡を取る。


どうか、この鏡に、あの人の笑顔が映りますように。どうせ死ぬのなら、あの人の笑顔を見て死にたいんです。


祈った。


なのに、映ったのは……。


黒髪の男に、背中から刺されるあの人の姿。


「え……?」


『従者のフリは辛かったが。魔王を滅ぼしたのだから、もう演技も不要。勇者、お前を殺してこの私がお前に成り代わり、第三王女と結ばれる』


黒髪の男が、言った声が、鏡から、聞こえてきた。


『キサマが生きていると困るんだよ』


……ねえ、あの人が、あたしが、何をしたの?


田舎の村で、一緒に暮らして。

それだけでよかったのに。

それ以外、何も要らなかったのに。


鏡は、映した。


第三王女と侯爵令息。

王と神官。

魔王。


あたしに、鏡は、見せてくれた。教えてくれた。


燃え盛る小屋の中で、あたしは、鏡に映るすべてを見ながら死んで……。




……そして、生き返った。


「……ふざけるな」


生き返った、あたしが、最初に発した言葉。


祈りは呪い。

神に願えば祈り。神以外に願えば呪い。

本質的には同じモノ。


ならば、あたしは呪おう。呪う、魔女に、なろう。


最初は、魔女の力をうまく使うことができなかった。

でも、時間はあったから。


焼けた小屋を元に戻した。


それだけで、あたしは七日、寝込んだ。


丘の草を生やして、森の木を元に戻して。


また、倒れて。


鏡で、王都の様子を見て。凱旋に浮かれる王都の人を見て。王城で行われた第三王女と侯爵令息の挙式の様子を見て。


……魔王城の外で、地に付したまま、ぴくりとも動かないのあの人を見て。


許せない……と思った。


鏡に、手を触れる。


どうか……と、願う。


神に願えば祈り。

それ以外は呪い。


呪いでいい。


水を掬うように。鏡に手を入れて。掬い上げる。


あの人の遺体を。


「……待っていてね。生き返らせるから」


あたしは魔女だ。

怒りが、呪いが、きっと。


薄れて、なくなっていくはずだった、あたしの魔女の血を呼び起こした。


でも、それでいい。

構わない。


この人を、生き返らせることができるのなら、魔女にだって悪魔にだってなる。



そうして、丘の上で、風に吹かれながらあなたの頭をあたしの膝に乗せて。


あなたの復活を、あたしは待った。



山羊が草を食んでいるのをぼんやりと見るふりをして、その実、内心はどきどきしながら。

あなたが、目を開けるのを、あたしは待っていた。


長い時間、多分、待った。

待って、待って、待って……、そして、聞きたかった声が、した。


「え……?」

「おはよう。よく寝ていたね」


あたしは、あなたに、笑って見せた。

大きな口を開けて、以前と……あなたが勇者になって、神官たちに連れていかれる前を同じように。


「え……?」


あなたが起き上がって、きょろきょろとあたりを見回した。


「オレは、夢でも見ていたのか……?」


ぼそりと呟かれた言葉に、あたしは首を横に振る。


「ううん。全部本当。あのクソ従者に背中からナイフで刺されて、死んだのよ、あなたは」


うん、夢よ。長い夢を見ていたの。


……そう言ってあげたかった。でも、死んだ村の人たち。父や母。彼らを戻すことはできない。燃えて、炭化してしまったから。

体がないから、元に戻せない。

物は燃えても直せるのに。人は無理だった。

単にあたしの力がまだ足りないのか、人間は複雑だから、元の身体がないと生き返らせることができないのか……。分からない。


だから、嘘を言ってもきっと矛盾が出る。

それにあたし、あなたに嘘なんて言いたくもなかったし。

残酷でも、あなたには嘘は言わない。


「全部見ていたから、あたし。あなたが魔王を倒して帰ってくるのなら、全部不問にしようと思ったのに」


あたしはあなたが帰ってきてくれればそれでよかったの。

あの黒髪の侯爵令息。あなたをナイフで刺したアイツは許せないけど、でも、ナイフの傷だけで、あとはきれいにあなたの身体を残してくれたのは不幸中の僥倖かも。

燃やされでもしたら、生き返らせることなんてできなかった。


だからって言って、あなたを殺した罪を軽くはしようとは思わないんだけど……。


その様子も、他のことも、全部、鏡が見せてくれた。あたしが死ぬ間際にね。

本来なら、あたしが知り得ないこともすべて。


その説明が難しくて、とりあえず持っていた鏡に魔王城を映す。


「今のあたしには、魔王なんて、そんなもの、いくらでも作れるの」


いくらでもって言うのは、本当は言い過ぎかな。


だって、炭化してしまった母や父や村人は作れない。生き返らせることはできなかった。できることを、してみせたほうが分かりやすいかな……。


「あなたが聖剣で倒した魔王。まだ体が残っているから、ちょっと修復して、もう一度命を与えちゃうね」

「え……?」


鏡の中に手を入れる。そして、動かす。死んでいた魔王を生きかえらせる。魔物も、同じように。


「さ、これでいいわ」


ああ、そうだ。複製も作ってみよう。

魔王の複製。

魔物の複製。

できるだけ、たくさん。


後は、この村に結界を張って……、あたしの力がどのくらい保つか分からないけど。

使えば使うほど、魔女の力は強大になっていくみたい。


「あと二体か三体くらい、世界のあちこちに魔王と魔王城を作るわ。ついでに魔物もたーっくさん生み出しておくね。それから……、この村と丘と川とか……、そこだけはあたしとあなた以外誰も入れないように結界を張っておく。また、この村での生活を脅かされると困るから」


にっこりとあたしは笑った。笑って見せた。


「えっと、それはいいんだけど、あのさ、その鏡って何? どうして魔王を作れたり、魔物を生み出したりできるんだ……?」


あなたが、あたしに、こわごわと聞く。ああ……どうしよう。あなたに、あたし、嫌われたら。怖がられたら……。


「あたしが怖い?」


声が、震えた。


「いや? 怖くなんてないけど。前からそんなことできたっけ……?」


不思議そうに傾けられるあなたの頭。

ああ……。少なくとも、怖がられてはいないみたい。

良かった……。


「ううん。前はできなかった。だけど、今はできる」

「何で……?」

「あたしも一回死んだから」

「え?」

「勇者が、田舎の青年であるという事実が、王様や貴族たちには不本意だったのよ。だから、この村出身の勇者という事実を消すために、村ごと全部滅ぼした」


初めから、分かっていて、初めから、あたしがもっと、この鏡の力や魔女の力にめざめていたら。

だけど、あたしに魔女の力がはっきりと目覚めたのは……きっと、あたしが死んだとき。


鏡に見せてもらったことを、あたしは淡々と話していった。

あなたは、茫然と、言った。


「じゃあ、アイツ……、オレの従者……が、魔王を倒した後、オレを殺したのは、アイツと第三王女だけの考えじゃなくて……」


あたしは頷いた。


「ああ、魔王を倒したのは、元々第三王女の婚約者だった侯爵家のご令息……ってコトになっているわよ。ご令息は第三王女への愛故に、勇者となって魔王を倒し、第三王女と結ばれたんだって」


呆然としているあなたに、更に告げる。


「王とか王女が描いた筋書き通りに、魔王を倒して世界は平和になりました……ってなるはずだったけど。あなたを取られて、村を焼かれて、あたしも殺されて……。呪って、呪って、呪ったあたしが魔女になることまでは、王女様たちの想定外だったみたいねえ」


「魔女」


「うん、そう。あたし、魔女になっちゃったの」


「魔女……」


あなたは、その言葉を繰り返した。何度も。

あたしは、内心の怖さを隠すみたいに饒舌になる。


「あなたが勇者になって魔王を倒しても。帰ってきてくれれば、あたしは帰りを待っていた村娘って役で終わったと思うんだけど。でも、お父さんもお母さんも村の人も全員、山羊や馬や羊や鳥や畑や作物も……全部焼かれて、あたしも焼かれて、呪った。呪って呪って……あなたまでナイフで刺されて。……許せなくて」


ゴメンね。魔女になんてなって。


「世界を呪う魔女になって、生き返ってからずっと、この鏡で、ずっとあなたの様子を見ていたの。生き返ったばかりのころは、あたし、魔女の力をうまく使うことができなかったけど……、今、なんとか、あなたも生き返らせることができた」


どうせなるのなら、もっと早く。

あなたが勇者に選ばれるより早くに。

そうしたら、あなたを危険な旅になんか出さずに、あんなクソ従者もどきの侯爵令息なんかに殺されずに済むまえに。


あなたと二人で逃げたのに。


イマサラ言っても遅い。

あたしもあなたも殺されて、あたしは魔女になって、死に戻った。


あなたに、怖がられたら。嫌われたら。きっと。


「魔王よりひどい魔女があたし。だって、世界を亡ぼす魔女だもの」


全部を亡ぼして、あたしも死ぬだろう。


嫌わないで。

お願い。



あたしが作り直した魔王たちとたくさんの魔物が、そのうちにこの村以外の世界のすべてを亡ぼしても。



どうか、あたしを、嫌わないで。


願う。

呪う。


風が吹く。丘に、草に、花に。風が吹いて行く。


さっきまでの饒舌さはどこに行ったのか。もう、あたしの口から出る言葉はなくなって。


そうしたら、あなたが。

しゃがんで。

黄色い花を摘んで。

束ねて。

あたしに差し出したてくれた。


「誕生日には間に合わなかった。ごめん。だけど、遅くなったけど、言う」



死に戻りのあなたと死に戻りのあたし。



結界の外の世界は、あたしが作った魔王たちと魔物に滅ぼされてしまうかもしれないけど。


どうでもいい。


もう、あなた以外はどうでもいい。



空は青く、雲は白い。草は緑。


あたしが張った結界の中。


誰も入れない二人きりの場所。


「一生、オレと、一緒に生きてください」





あなたの求婚に、魔女になったあたしは、泣いた。泣きながら笑った。




たとえ、世界が滅びても。


たとえ、誰かに恨まれても、恨んでも。


青い空と白い雲と……黄色く小さなかわいい花と……あなたの笑顔があれば。


もう、それでいいだと思えるあたしは……身勝手な、死に戻りの魔女。









終わり






・・・・・・・・・・・・・・・・






お読みいただきましてありがとうございました!




『勇者と魔女』が、小説家になろう様の [日間]ハイファンタジー〔ファンタジー〕 - 短編にて5位をいただきました!


なので、魔女視点のお話も追加。


祈りと呪いって似てるよねーって。




元旦早々、世界を亡ぼす系のお話で申し訳ない。


今年も一年よろしくお願いいたしますm(__)m



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勇者と魔女 藍銅紅@『前向き令嬢と二度目の恋』発売中 @ranndoukou

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